研究の最終年度として、次の3点の活動を通して当初計画した成果を得る事が出来た。 ①東洋古典園林の思想をインスタレーション作品として、国際芸術祭で発表した。 昨年度までの研究で、いまだ定義付けがされていない東洋的視座に立ったインスタレーションとは、「森羅万象を貫く精神的支柱を持ちながらも、表面上は逆に森羅万象の些細な変化に身を浸す作品である」との考えを得るに至った。本年はその視座から空間と事物そのものの在り方の変化に、自身の精神性を重ね合わせて回遊しながら鑑賞する作品「北アルプス・高瀬川庭園」を制作し、「北アルプス国際芸術祭2017」において発表した。古民家の内部全体を古典園林の手法で作品化した本作は、57日間の期間中約1万人が鑑賞し、鑑賞者の視点から古典園林の文脈をインスタレーションの作品として密接に関係付ける事に成功した。 ②園林の思想の一つ「小中見大」の思想に基づいた小作品「曲河園」を制作し、「薪技芸展」(中国上海工芸美術職業学院と清華大学美術学院を中心とした日本、中国、韓国、イギリス、アメリカ等8カ国の大学による国際展)で展示とシンポジウムでの発表をおこなった。その中で園林の空間表現としての手法が、「道」としての生き方の思想であり、心情から「美」を学ぶ環境であり、さらに身体と連動した宇宙そのものであり、東洋的インスタレーションの起点になりうるものとして明示した。 ③本研究の成果について、日中2カ国語による報告書を作成した。報告書はまずインスタレーションと園林が「それぞれ何を表現しようとしているのか」それぞれの立ち位置を明確にしている。その上で、日中のインスタレーション作家のインタビューを通して各作家の園林的要素を整理し、インスタレーションと園林の差異と共通点から見られる東洋的インスタレーションの視点を提示し、その応用としての実践的作品を制作した記録が記載されている。
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