研究課題/領域番号 |
26370167
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研究機関 | 愛知県立大学 |
研究代表者 |
山本 順子 愛知県立大学, 外国語学部, 教授 (80295576)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ニーベルンゲン / 神話 / 共同体 / 記念碑 / ジークフリート |
研究実績の概要 |
ニーベルンゲン伝説の舞台として、ライン中流域の景勝が19世紀に歴史的な意味づけを受けた過程をたどった。
a)ヴォルムスにおける調査: ニーベルンゲン博物館、大聖堂、Festspiele、Nibelungenbrunnen und-brueckeなど。成立過程に関する資料収集(戦禍に遭い記録が唯一の資料。さらにライン河畔に建てられているハーゲン像(Hagendenkmal)に注目。それに関する歴史的変容(裏切り→忠臣)が愛国主義的プロパガンダの影響下にあることを確認した。 b)ライン河をめぐるドイツというアイデンティティの確立をめぐって:ケーニヒスヴィンター(Drachenfels, Schloss Drachenburg, Nibelungenhalle)、コブレンツ(Deutsches Eck, Schloss Stolzenfels)、ローレライ岸壁、ニーダーヴァルト(Niederwalddenkmal)において19世紀末の景勝地保存の試みの実際を見学、資料収集した。 c)記念碑: Nipperdayの研究を中心に、19世紀後半からナチ時代にかけての建築物を国民的アイデンティティの形象化ととらえ、様々な紹介論文の文脈を調査。それによってSchinkel以降の流れを把握することを目的とした。またBismarck-Tuermeという個人崇拝現象を把握。 d)共同体の神話: シェリングの美学論の根底にある新しい神話の要請を19世紀の問題として捉え、この哲学的要請を、テニエスによる“Gemeinschaft und Gesellschaft“を社会学的分析へと繋げ、さらに文化論的現象の中に位置づけることを確認した。具体的には共同体刷新の契機としての革命論、その国家社会主義への変容などの観点などを検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2014年度は、4月末からほぼ一年間、勤務校より学長特別教員研究費研究費を取得、ドイツ、マインツ大学カント研究所にて学外研究をしていた。 この研究のテーマは、「モデルネ」の哲学・文化的研究(カント、ショーペンハウアー、ニーチェ)であり、時代的には本研究と重なるものである。また、諸思想家の文献精査を中心としたものであったが故に、ナショナリズム的基盤に関する理論、特に哲学的神話論を構築する上では、成果を見ることができたといえる。 さらに、現地調査、資料収集など、ライン河に位置するマインツは恰好の拠点となり、その意味では収穫が大きかった。 しかしながら、カント研究所の招聘の大きな理由である、カント研究者ザーロモ・フリートレンダーの研究を中心にせざるを得なかったため、カタログや画像などの処理、分析といった作業が滞っている。
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今後の研究の推進方策 |
1. ニーベルンゲン伝説に関して、 ジークフリート神話の諸相: 研究成果をテーマ別に、「19世紀、ドイツ帝国のアイデンティティの創出」、「20世紀、感情移入装置としての崇高神話」、「フリッツ・ラングの映画的様式の確立」というようにまとめる。既発表のイデオロギー論と合わせて著書として刊行する。特にフリッツ・ラングの『ニーベルンゲン』については、様式と演出という観点からこれから論を構築する予定である。 2. シェリング神話論をその定義より検証する。その上で19世紀の思想的系譜、特にドイツロマン派を含めた思想圏のなかに位置づける。その際、国家、共同体といった、人間の集団のあり方に関する研究と繋げて、アイデンティティの根拠となる要素になるものの具体的な現象を追究する。美的現象として集団劇や祝祭演出、政治的現象として革命や労働運動が挙げられよう。これによって19世紀後半の市民層をこれまでとは異なった観点で捉え直すことを試みる。 3. ショーペンハウアー美学論のアクチュアリティを検証する。ニーチェとの関連性は周知のことであるが、ヘルムホルツ等自然科学との関連性を指摘することにより、再評価を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
2014年度の一年間に、別途学長特別教員研究費の助成(渡航費、滞在費)を得て学外研究に出ていたせいで、思うように予算を執行できなかったことが主要な原因である。書籍や記憶媒体などの必要なものについては、こちらの助成金を使用したが、学外研究は図書館での作業が多く、在籍者向けの格安のコピー費などは計上できなかった。また、調査についても近郊鉄道が多く、これも計上するほどのものではなかった。逆に予定外の出費としては、論文集に掲載するため欧文原稿を作成し、それをネイティブチェックにかけたための、校正費がある。
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次年度使用額の使用計画 |
引き続き4本目の論文をネイティブチェックにかけ、欧文書籍に寄稿できるようにする予定である。 その他、表現主義映画関連の書籍、DVDを書い足し、フリッツ・ラングやマックス・ラインハルトの様式に関する研究の準備を進める。機器については、既存のものを生かしながらプロジェクタなど、映像関係を充実させたい。
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