研究課題/領域番号 |
26370167
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研究機関 | 愛知県立大学 |
研究代表者 |
山本 順子 愛知県立大学, 外国語学部, 教授 (80295576)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 集団心理学 / 共同体 / 新古典主義 / 群衆論 |
研究実績の概要 |
19世紀社会のイデオロギー形成に関わる社会的構造の変化を理論的にたどる。その際主体と社会との関係を立脚点にして、以下の諸点が確認された。 1. 社会学的共同体論 テンニエスの再評価: 全体(有機的統一体)と個人との関係を、エマナチオの原理を持つ共同意志で結びつけた、形成過程を時代的文脈(神話的アイデンティティ論)の中で重要視する。これと対立する新たなより大きな体勢秩序として、ジンメルやエリアスといったそれに続く社会学者たちもGesellschaft という近代の構造体をとらえている。さらにテオドーア・ガイガーは集団の基本的定義から発展させ、個々の構成員の結びつきに着目し、Ansteckungによる集団体験が革命に転じていくことを強調。さらにこうした集団の神話的統合がジョルジュ・ソレルの革命論を招来するのである。 2. フランス革命の影響 ドイツにおける思想的変化をカント、シラー、ロマン派の美学論のなかに確認。その際ハンナ・アーレントのカント政治哲学論における批判主体のふるまいを、観察者の位置と結びつけ、19世紀初頭の集団的享受を考察。 3. 記念碑建築 革命集団の空間的演出をスタロバンスキーに確認し、旧勢力が残る1800年のドイツにおいてそれがどのように折衷され表象されるかをランデンブルク門などの新古典主義で探った。 4. 恋愛と婚姻 個人と社会をつなぐ理論をフロイトが集団心理学で展開したのは、家父長構造を社会的関係に敷衍させることであった。しかし、具体的に個人(文学)と歴史(社会システム)の言説はどう関わっていくのかをセルトーを出発点にたどった。ロラン・バルトの恋愛文学論、デリダ、ドゥルーズの近親相姦論などで言語的展開が問題となっていることをふまえ、ルソー、キルケゴールの婚姻論を分析。その際フーコー、ルーマン、ハーバーマースなどの社会構造論で根拠づけできることを確認。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
共同体論を探る中で、特に19世紀の婚姻と家族のあり方について、探る必要性があり、エリアスやハーバーマースなどの社会構造史をあたっていたため。これについては今年度前半で論文を仕上げる予定である。 フランス革命下での鑑賞者の変遷については、資料不足で論文執筆が中断したままである。書店に在庫がない書籍をドイツの出版元に注文したが、何冊かが未だ納入されていない。これについては、新たなモチーフを加え、集団演出上での階段という空間構成の重要性を今年度後半で取り上げる中で組み入れたい。
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今後の研究の推進方策 |
19世紀の空間構成を、イデオロギー表出の場ととらえて、建築学的、美学的立場より、さらにはコミュニケーションの場としての公共性分析を通して考察する。 1. 今年度は、ニーベルンゲン伝説再現の舞台設定に着目し、19世紀の画像表象において、教会前の階段、城門、砦を物語展開における転換点ととらえて分析する。具体的にはナザレ派とも関連させて、物語の決定的瞬間の絵画的表象の形式を抽出する。また、展示領域の非日常性を踏まえながら、受容美学の見地からも演出の影響を考察する。 2. ディスクール分析を通して19世紀ブルジョワ社会の主体確立のプロセスをたどる。テンニエスの『ゲマインシャフトとゲゼルシャフト』を参考にして、19世紀社会における血縁的、有機的共同体から理性的構成体としての市民社会への移行を分析する。その際、社会と個、全体と部分の関係は社会的、心理学的観点、あるいは言説分析でさまざまに減少していることを示す。そのことでルソー、キルケゴールなどの思想家の社会論との関連を指摘できよう。 3. 19世紀のドイツ劇場空間成立をフランス革命の影響の中に捉え、集団の収容のありかた、ファサードの構成、演劇の美的教育効果などを踏まえて読み解く。その際カントの『判断力批判』はまさに仏革命と同時代であることに着目する。ルドゥーによるフランス新古典主義による祝祭、崇高の場の構築が、ドイツにおいてどのような影響を与えたかを、イデオロギー的演出という立脚点から探る。
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次年度使用額が生じた理由 |
2014年度に一年間、勤務校の助成を得て学外研究を行った。渡航費、滞在費などの研究に必要な必要経費をまかなうことが出来たことに加え、準備のために当該年度に先行する年度に機器等を揃えたためこの年自体では使用が大幅に少額で済んだ。 また、寄稿する予定のドイツでの論文集は、編集者の都合で出版計画が滞っており、ネイティブチェック、校正等の予定額が執行されずに留まっていた。 結果として比較的少額の文献貸借費などが主な支出となったことによる。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度は情報処理機器を更新して研究の最終的なまとめに向かって利便性を図る予定である。具体的には、コピー資料の管理のため、スキャナーやハードディスクを整え、PDFで保存、OCRにかけてテクスト検索にかけて分析調査に対応できるようにする。また、関連著作の全集の新版(ベンヤミン、フィヒテなど)購入など、書籍購入を引き続き行う。停滞している出版に対して、ネイティブチェックを施して完全原稿にし、提出に調える。
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