研究課題/領域番号 |
26370167
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研究機関 | 愛知県立大学 |
研究代表者 |
山本 順子 愛知県立大学, 外国語学部, 教授 (80295576)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 様式 / 個と普遍 / ナショナリズム |
研究実績の概要 |
28年度では、その前年度に考察しきれなかった大衆参加様式について、理論的な文献をもとにした検証を中心に行った。スタロバンスキーはフランスにおける啓蒙主義ならびに革命の主体としての市民階級の政治的な空間が出現することの中に、建築が様式化されたことを示しているが、その影響をドイツの19世紀建築に見ることが出来るのは明白である。それを踏まえた上でさらに表象のあり方が変化しているさまを、様式という概念でとらえようとするのが今年度の成果である。 ドイツにおけるナショナリズムの表象を、様式に対する意識の高まり、すなわち、様式化による多要素の抽象化という観点から検証し、これがジャンルを超えた現象であることを示した。 1. 19世紀を変遷の時代と捉えたMoselleckのSattelzeit概念をもとに、諸時代の様式が相対化されたこと。2. 様式(Stil)という語の定義を、語義と用例をひろく収集、分析したグリムの辞書に着目し、19世紀という時代における様式化が創造原理とともに、形式原理としてもはたらいたことを確認。3.美的原理として様式を把握する場合の問題点をパノフスキー、シャピロらによる定義を踏まえながらたどり、個と集団の問題であることを導いた。4. 大量消費文化が始まった20世紀前半の状況を個と普遍の問題を敷衍させて分析、それが、様式化がブルジョワの生活態度につながると指摘したアドルノやジンメルの論考を踏まえた。5. 様式相対主義が価値操作を導き、集団の儀式化を伴うものであることを例証。 6. 国民様式の要請ならびにプロイセン様式の称揚を例示。7. 共同体意識を表象するモニュメントの意義と問題性をNiipperdeyを踏まえて指摘。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初は平成26から28年度にかけての3年計画であったが、申請者が1年目に他のテーマの研究のために海外研修に従事し、その間研究が滞っていたことが一番の原因である。 26年度は現地滞在の利を生かして史跡調査、博物館見学などを中心とした研究を行った。具体的にはニーベルンゲン伝説の舞台であることを演出した建築物、記念像などである。 27年度は文献資料の収集(画集や論文集など)ならびに解釈、裏づけ資料の手配などを行った。さらに革命後のフランスの祝祭空間についての研究をもとに19世紀の意識を把握。その結果、ブランデンブルク門設計、建築の意図、評価についても調査することとなった。これは崇高概念や受容美学とともに論じるつもりでいる。 28年度についてはナショナリズムの表象に関して、主に理論的な論拠が得られたといえる。これをニーベルンゲン伝説の表象に繋げることが今後の課題として存在する。
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今後の研究の推進方策 |
19世紀におけるニーベルンゲン伝説の表象については、すでに多くの研究書が出されており、実証的なケーススタディがなされている。それらについては概ね把握したつもりである。また、収集した画集、画像資料の有効な分析も俟たれるのだが、従来の諸研究の上に新たな例を追加することはあまり有意義とはいえまい。それ故、まず第一歩としてそれらを概観した上で抽象化して、様式問題ととらえたのが28年度の研究結果であるが、論調の理論的傾向のために、テーマの求心性が弱まったというきらいが否めない。 そこで一方では当初の予定通り、フリッツ・ラングの『ニーベルンゲン』演出における19世紀様式化の影響を分析する。その際の留意点は、単なる比較に終わることなく、実験的遊戯性から脱却しつつある1910年代後半の映画において、メディアの特性である再現性と画像的様式化とがいかなる関係性にあるのかを示すことである。またラインハルト的な演劇的崇高演出との関連で論じることができるとみている。 また一方では理論的追究の方向性を保持し、哲学領域(シェリング)などの思想とともに、絵画(ロマン派、象徴主義)にみられる神話的図像の変化をたどる予定でいる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該研究は、平成26年から28年までの3年間の予定で申請されたものであるが、申請者の学外研究により滞ったたため一年間延長したことによるものである。つまり平成26年度は所属の学長特別研究の助成を得て別テーマの研究に従事していた。そのため研究自体は言うまでもなく、交付金の執行もまた遅れていた。
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次年度使用額の使用計画 |
これまでと同様、資料収集のための交付金使用が中心となる。 具体的には、図書館相互貸借送料、コピー費、図書購入費である。また、ドイツでの資料収集(8月下旬)も予定している。さらに論文のドイツ語での発表に備えて、ネイティブの校正サービス(単語数で計算)を依頼する。
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