前年度までたどっていた、19世紀におけるナショナリズムの形象化現象では、フランス革命後の集団祝祭の場の構築をふまえた。さらにその影響下でこれら、啓蒙主義的で、なおかつ擬古典主義的様式化の試みが、モニュメンタルな構築物が特徴的であるドイツでどう発展したかを確認した。その際、主として折衷主義建築に関連して注目した「様式」問題が、20世紀に入って、時代の変化(第一次大戦、共和国の成立、大衆による新世界構築、視覚メディアの登場)でどのように具体化したかが最終年度の課題であった。その過程で言語的様式化としての「概念」の操作性がもたらすパラドックス問題(公刊済み)、可能世界のディスクール分析(表現主義的SF論、脱稿済み)をドイツ語でまとめることができ、国際的な評価を待つこととなった。後者は編集者によってさらにロシアの専門家に紹介された。 目下取り組んでいるのは、課題のタイトルであるナショナリズム的神話化を、フリッツ・ラングの『ニーベルンゲン』分析で検証することである。 1. ここにいたるまでのラングの伝記的系譜を資料で確認。芸術受容、特にマックス・ラインハルトからの影響をチェックした。2. ラインハルトの集団の配置に様式化の傾向がみられること、そしてその目的として観客を含めた民衆の形成にあることを確認した。3. ラングならびに原作と脚本を担ったハルボウの覚え書きなどから『ニーベルンゲン』制作の目的を探った。4. 封切り前後の批評家の論考をたどり、作品への期待、影響について調査する。5. ニーベルンゲン伝説の果たした役割を具体的に検証した。英雄、剣、忠臣といったキーワードで、文学、絵画、そして映画による形象化は多くの研究書が出ているが、それらをふまえながら新たな視点として群衆演出が有効であることを確認した。 これらをふまえた論考は以前のナショナリズム研究と合わせて刊行の予定である。
|