研究課題/領域番号 |
26370171
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研究機関 | 東京情報大学 |
研究代表者 |
茨木 正治 東京情報大学, 総合情報学部, 教授 (10247463)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 政治漫画 / 新聞 / 横山泰三 / 政治報道 / 諷刺 / 雑誌 |
研究実績の概要 |
本研究は、人物によらない新聞1コマ漫画「社会戯評」が描く、政治疑獄事件(「造船疑獄」「黒い霧事件」「佐川急便事件」)の描写を分析し、人物偏重の政治画像報道を見直すものである。研究の目的として、1「社会戯評」の登場、特徴の変化を裏付ける「メディア環境の考察」、2「社会戯評」の政治諷刺画としての役割を検討する「メッセージ内容の考察」、3「社会戯評」が読み手や社会に与えた影響を探る「メディアとしての「社会戯評」の検討」の3点を設定した。また,上記1と2の前提となる作業として、平成26年度からの継続した、「社会戯評」スキャニング作業を行い、1965年から1980年10月までを完了させた。 27年度は,主に1,2に対応するものとして,(1)「漫画化」あるいは「メディア化」概念の考察,(2)諷刺概念の操作的定義の確立とその実証,(3)諷刺画掲載媒体の特徴とそこからの諷刺画の位置づけ,の3点を行った。 (1)は、漫画作品が映画、テレビ(アニメを含む)、舞台等ほかのメディアによって表現されたものとの関係を,メディア間の「変換」過程ととらえ,それに伴うメディア属性の変化を探った。この知見をもとに、学会発表を行った(学会発表1および2)。 (2)は、諷刺概念を社会規範との関係としてとらえる理解を文芸作品や諷刺研究の蓄積から抽出し、その実証化を「社会戯評」の諸作品の分析によって試みた(学会発表3および4)。 (3)は(1)の「漫画化」に関連して考察したものに加えて、メディア史の知見から、新聞、雑誌がどのような属性を持って成立してきたのか、またそこに存在する政府や権力のメディア規制に関する試みの歴史を辿ることによって明らかになったものをいくつかまとめた。これは、本務校における講義(「新聞論」)において反映させた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、政治認識の手段としての「政治漫画」のまだ解明されていない事柄描写の働きを明らかにするとともに、画像・文字による政治報道理解を助ける方法論の確立への展開のための基盤となる研究を行うことにある。評価理由は研究進行中に以下のような知見が見出されたからである。 諷刺概念の規定と読み手に与える影響を考察するにあたり、メディア研究におけるフレーム、フレーミング概念を適用することが有効であることがあげられる。諷刺を構成する逸脱対象となる社会規範がどのように形成されているかを探るときに、諷刺漫画が主題を決める題材を提供するメディア報道が内包する認知枠組み(フレーム)をもとにすることができる。このフレームは、特定争点の語られ方から探ることで明らかになる。 一方、課題も散見される。 「社会戯評」分析項目の通時的・総体的分析をするため、特に「社会戯評」の役割が政治諷刺画から世相諷刺画に変化したことを図像学的視点から解明するためには早期のデータ作成が求められる。しかし、27年度は、データベース作成への人員確保が十分でなく、前年度の学生に依存せざるを得なかったため、27年度中にデータ作成を完了させることができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
次の3点を軸に研究を推進させる。第一に,メディア・フレーム概念を政治諷刺漫画に適用,第二に,人物によらない諷刺画表現の時代性・独自性の検証として,1新聞諷刺漫画との比較と横山泰三研究における作品比較,21960年代~70年代のいわゆる「ナンセンス」漫画(60~70年代)技法との比較を行う。 第一の点では,メディアがもつ認知枠組みを記事から推定する手法を,政治マンガ読解レトリックと組み合わせて,画像情報のフレーム構築を試みる。現代の諷刺画が置かれている状況を諷刺概念の変化と併せて概観し,フレーム研究の必要性を説いた報告を4月16日(土)社会哲学研究会において,行った。次に,7月16・17日日本笑い学会第23回大会研究発表会報告(於関西大学堺キャンパス「「諷刺画にみる笑い――新聞1コマ諷刺漫画を手掛かりに――」)において,「笑い」の面から横山泰三の作品を,諷刺画研究を位置づける。 第二の点の1については,6月19日(日)日本法政学会第124回大会報告(「情報社会における政治と諷刺」於日本大学法学部)において,「社会戯評」と現代の政治諷刺画との比較を行う際に,社会規範のフレームによる抽出の妥当性を示す。さらに,それを基にした論文を,法政学会学会誌『法政論叢』に投稿する。2の同時代の類似作品と比較して,横山の独自性を指摘するとともに,社会・政治認識の手段として横山の諷刺画を位置づける報告を10月8日・9日日本社会学会第89回大会(於九州大学)において行う(一般研究報告「政治諷刺漫画における笑いと社会批判」)。また,この大会では,テーマセッション「社会学とマンガ研究をつなぐ――「批判性」を軸にして」を実施し,そこでのセッション運営を通じて,批判性の様式の多様な視点を享受する。
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次年度使用額が生じた理由 |
「社会戯評」および「プーサン」のデータベース化作業について、夏季・冬季・春季の休業中に確保することが十分でなく、授業期間中に依頼せざるを得ず、27年度で作業を完了させることができなかった。そのため、28年度も人件費として投入することになった。 28年度は、これまでの成果を反映させるため、学会・研究会発表・報告の頻度が前年度に比べ増加する。それゆえ、旅費の割合が増加した。加えて、特に28年度前期おいて、フレーム概念の援用による政治諷刺画分析と、60~70年代の横山泰三作品自体の比較と、それ以外の作品との比較のため、資料の収集と分析に当該研究費を使用する必要が生じている。
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次年度使用額の使用計画 |
スキャニング作業の継続を迅速に進めデーターベース化を8月までに完了させる。それに関する人材確保と人件費の投入を行う。雑誌・新聞掲載の「プーサン」のスキャニングも同時期に進行させ,比較対象の素材とする。物品費のうち,諷刺研究,メディア研究に関する文献(図書・雑誌)購入も28年度前半には弱冠必要である。加えて,研究成果発表の場が,都内は1回のみであるが,所属学会の発表が関西と九州と地方開催の大会発表(「笑い学会」,「社会学会」)となるため,報告と参加に旅費が必要となる。
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