本研究の最終年度となった2018年度は、研究課題とした梅蘭芳が初めての訪日公演を行った1919年から数えてちょうど百年となる節目の年である。 報告者は当初の研究計画に従って、中国北京にある梅蘭芳関連の博物館兼研究機関である梅蘭芳記念館と連絡を取り、また国際交流基金北京事務所の協力を得ながら、梅蘭芳訪日百年を記念する国際シンポジウムを企画した。最終的には報告者の所属する早稲田大学演劇博物館も共催機関に加わり、2019年1月26日に北京の中国芸術研究院を会場として無事に開催の運びとなった。当日は中国内外から梅蘭芳訪日公演を研究する研究者が集い、丸一日にわたって研究報告と討論が行われ、その模様は中国の各種メディアで盛んに報道された。 報告者はこのシンポジウムにおいて、本研究で得られた情報に基づき、梅蘭芳訪日前の段階から、日本の知識人、文化人によって、当時の日本で構築されつつあった「東洋文化」の枠組みの中に梅蘭芳が組み込まれ、単なる中国の人気俳優という扱いだけではなく、東洋文化の象徴として日本社会に受容されたプロセスを検証する研究報告を行った。シンポジウム開催後にその概要は『北京晩報』、および国際交流基金のHPに掲載され、論文としては後日梅蘭芳記念館の紀要に発表される予定である。 また当初計画にあった梅蘭芳訪日公演関連資料のデータベースも、研究補助者を雇用してさらなる充実に努め、特に『順天時報』、『台湾日日新報』など中国語新聞に掲載された情報の収集整理を進めた。 このほか本来の研究計画にはなかったが、2018年10月23日に中国上海崑劇団の公演を早稲田大学大隈記念講堂で開催し、梅蘭芳初訪日時に演じられた崑曲の演目『琴調』を特別に上演、併せて報告者により「崑劇と日本の百年」という解説を行い、本研究の成果の一部を一般に公開している。
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