研究課題/領域番号 |
26370180
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
鈴木 雅雄 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (20251332)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | シュルレアリスム / マンガ / 近現代美術 / 視覚文化論 |
研究実績の概要 |
2014年度の研究活動は、マンガ研究者の協力を得て開催しているワークショップの継続・単行本化と、個人でのシュルレアリスム美術研究とに分けることができる。 第一の仕事は、2013年度に3回開催したワークショップの成果を、論集『マンガを「見る」という体験』として出版することであった。この編集作業、および自身の論文執筆を通じ、今回の研究課題を明確に整理することができた。近現代の視覚文化史を、マンガを起点として捉えることで読み換え、そのなかにシュルレアリスムを位置づけるというのが課題であるが、以上の作業を通じて確認できたのは、イメージにおける時間表現に着目することの必要性である。異なった瞬間に属する要素の並置によって作動するというマンガ表現の特質について考えることは、マンガを絵画・写真・映画や広告のイラストなど、隣接する視覚文化との比較のなかでマンガを位置づけることにつながる。そしてこのパースペクティヴのなかでなら、近現代美術の造型的課題を考えるうえで重要なものと見なされることの少ないシュルレアリスム美術にも、本質的な要素としての位置を与えることができるという確信をえつつある。こうした見通しのなかで、2014年度後半からは新たなワークショップ「マンガ、あるいは「見る」ことの近代」を開始しており、2015年度も継続する。 他方シュルレアリスム美術そのものについての研究としては、今回の課題で中心的に扱おうと考えている3人の作家のうちの2人、ロベール・ベナユーンとジゼル・プラシノスに関しての資料収集と分析を行った。ベナユーンについては、1950年代に作成されたと思われる、ほぼ未発表のコラージュ数十点を発見できたのは大きな成果だった。他方プラシノスについては、作家の知人にインタビューして情報を得るとともに、パリ市歴史図書館に所蔵されている草稿資料の複製許可をうるための手続きを進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予想以上に進展した側面と、やや遅れ気味の側面があるので、全体としてはおおむね順調と表現することにする。 マンガ研究者との共同作業であるワークショップ、およびその単行本化はきわめて順調に進行している。他領域との協力関係にもとづく仕事なので、どの程度のペースで進められるかわからないところもあったが、マンガ研究の方たちの参加は予想をはるかに超えてダイナミックなもので、論文集の刊行もスムースになされた他、この方面での人脈を広げることができたのは、今後の作業にとって大きな成果だった。マンガ研究者の方たちも、視覚文化論という大きな枠組のなかでのマンガの位置という問題に意識的な発表をしてくれている。現在進行中の第2期ワークショップについても、2015年度いっぱい継続したうえで単行本化することがほぼ決定しており、マンガの新たな位置づけという今回の課題の中心的な作業は、予想以上に順調に進んでいると考えられる。 他方、マンガ表現との関係において捉えることが特に興味深いシュルレアリストとして3人の作家を想定していたが、2014年度はこのうちロベール・ベナユーンとジゼル・プラシノスについての作業を中心に行った。ベナユーンについては、思いがけない資料が閲覧できるという幸運もあったが、プラシノスに関する作業は、予定よりもやや遅れ気味になっている。作家ご本人がご高齢のため、結局直接的なアクセスは不可能とわかったこと、またパリ市歴史図書館に所蔵されている相当量の草稿資料について、複製許可などの手続きにやや手間取っていることが、主たる遅れの原因である。ただし、作家本人をよく知る研究者の協力で問題解決の道筋は見えつつあり、2015年度は遅れを挽回できるものと期待している。
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今後の研究の推進方策 |
マンガ研究者との共同作業であるワークショップの開催、およびその単行本化については、当初の計画通り進めていく。2014年度後期から開催している「マンガ、あるいは「見る」ことの近代」と題したワークショップは、2015年いっぱい継続したうえで、これをもとにした論文集を2016年前半に出版予定。発表者以外にも論文の執筆者をつのる予定で、その交渉もはじめつつある。これが予定通り出版されれば、最終年度となる2016年度には、複数の発表者が登壇するパネルを組んで、総括をすることも考えている。 なお、この協力体制は、今回の課題の終了後も何らかの形で延長していきたいという気持ちを強くしており、以上の作業を進めながら、次の科研費獲得を目指した計画の立案も行っていきたい。 他方、マンガ研究の成果を活かしてシュルレアリスムの造形表現に視覚文化論的な位置づけを与え直す作業については、ワークショップを単行本化する際に執筆する論文でも試みるが、具体的な作家論の形では、まずはジゼル・プラシノスのモノグラフィーとして結実させたい。「達成度」に関する部分で述べたような理由で、当初の計画通りの2015年末の出版は難しくなりつつあるが、なるべく2015年度中、それが無理でも2016年前半には出版したい。またこの研究の成果は、やはり出版の決定している、ルーマニア出身のシュルレアリストで、詩人であるとともにコラージュ作家としても重要なゲラシム・ルカの『受け身の吸血鬼』翻訳の解説などにも活かされるだろう。 以上のような出版計画を進めることが研究課題を進めることになるはずだが、もちろんその前提となる資料収集なども、並行して続行する。プラシノスの草稿資料については2015年9月に渡仏して集中的に調査するほか、もう一人の研究対象であるジャン=クロード・シルベルマンについても、ご本人とコンタクトできる見通しが立ちつつある。
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