2016年度の研究成果もこれまで同様、マンガ研究者の協力を得て開催してきた連続ワークショップの単行本化と、そこから発想を得て個人で進めてきた研究作業の二つに分けることができる。 2013年度に開催した一連のワークショップは『マンガを「見る」という体験』(水声社)という形で2014年に単行本化したが、2014年度後半から2015年度にかけて開催した第2期のワークショップも、2017年3月に『マンガ視覚文化論』(水声社)として出版することができた。現在の日本におけるマンガ研究の最前線に位置する執筆陣をえて、マンガというメディアが近代のナラティヴな文化、および視覚文化のなかでどのような意義と特異性を持っていたかをめぐる、レベルの高い議論を展開することができたと考える。そのなかに発表した自らの論文では、ポスターや絵本といった他の近代的視覚メディアとマンガを対比させることで、その歴史的位置を特定することを試み、現時点におけるマンガについての考えをまとめることができた。 一方シュルレアリスムについての研究としては、昨年までと同様ジゼル・プラシノスに関する単著の完成に向けた作業を中心に進めた。水声社から刊行される叢書「シュルレアリスムの25時」第2期の1冊となる予定の著作であるが、叢書全体の刊行が少しずつずれこんでいるために2016年度中の上梓にはいたれなかったものの、2017年度後半には刊行の見こみである。また昨年同様に、プラシノスの草稿資料を多く所蔵するパリ市歴史図書館に足を運び、著作完成のための確認作業を行った。 さらに近代の文学と聴覚文化との関わりを扱った論集『声と文学』(平凡社)を塚本昌則氏とともに編集し、自らも執筆したが、このなかではマンガも含めた近代文化のなかでのシュルレアリスム的な経験の意味について、さらに広い観点から捉えなおす作業をすることができた。
|