研究課題/領域番号 |
26370182
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研究機関 | 明星大学 |
研究代表者 |
向後 恵里子 明星大学, 人文学部, 准教授 (80454015)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 美術史 / 視覚文化論 / 表象文化論 / 身体イメージ / 人種イメージ / 芸術諸学 / 黒人 / イメージ論 |
研究実績の概要 |
本研究は、日本における黒い膚をもつ〈黒人〉の表象を、美術および複製メディアにおける視覚文化を対象として調査し考察するものである。日本の〈黒人〉表象においては、実際にふれあい、語ることの少ないがゆえに、「膚の色」という視覚的な情報による身体の差異化が重視される。膚の色をより濃く、より黒く表現される人々は、実際の黒人とは異なる、虚構にしか存在しない〈黒人〉である。そこには東洋的世界観における異人、西洋的文明観における未開人・野蛮人などの理解が推移し、また西のかなたの異国に対するエキゾチズムとオリエンタリズムとがないまぜになった〈黒人〉イメージが展開している。注目するのは、近世から明治初期、日露戦争から第一次大戦を経験する明治後期から大正前期、昭和戦前期の各時期である。それぞれの時代の〈黒人〉表象を明らかにし、その特色を考察することで、日本近代において人々が肌の色の違いにこめた人種観・文明観・世界観の変容をたどり、共有された他者へのまなざしを探ることが本研究の目的である。 今年度は前年に引き続いて、多様な文脈の人種や民族の表象についての研究を参照しながら、調査・分析をすすめた。その過程で、『通俗伊蘇普物語』や、司馬江漢『江漢西遊日記』、『米欧回覧実記』をはじめ、多様な〈黒人〉描写を言説のうちに探るのみならず、高川文筌 《亜米利加使節饗応之図》のミンストレル・ショー(白人による黒人の扮装)や、高貴な野蛮人としての「土人印」の煙草、また冒険活劇における敵役として、植民地の住人としての野蛮な〈黒人〉、野生みなぎる溌剌たる身体としての〈黒人〉など、多くの事例を蓄積、分析することができた。本年の成果は、サントリー文化財団研究助成プロジェクト第5回国際シンポジウム「東アジアにおける大衆的図像の視覚文化論」において、「黒い膚の幻想ー日本近代の〈黒人〉イメージをめぐって」と題して報告を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は上記に述べたように成果を報告することができ、当初の計画の範囲でおおむね順調に進展させることができた。とくに、具体的な事例の収集において、今後よりいっそうの調査をするための鍵となるような重要な作例を多く確認、分析することができた点が研究の遂行上もっとも良い点であった。 ただし、他の研究・教育活動のエフォートとのかねあいで、長期調査がなかなかかなわなかった点は次年度の課題である。とはいえ、本年度の居住地付近での調査でも成果を出し、また出張時の準備となった点では、それほどの遅れとは言えないと考える。
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今後の研究の推進方策 |
本年は、研究成果のとりまとめ及びさらなる成果の発表をめざし、以下の方針でとりくむ。 (1)〈黒人〉資料の調査・分析: これまでに得られた成果をもとに、資料の調査分析にあたる。 (2)調査出張: これまでの調査の成果をもとに、出張して調査を行い、事例の収集とともに理論の深化をはかる。 (3)考察の精緻化: 人種や民族、植民地主義、帝国主義、ツーリズム、大衆文化、エキゾチシズムとオリエンタリズムなど、広範な理論的背景をとりいれながら、考察を精緻化してゆく。 (4)成果の発表: 論文の執筆をおこなう。
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次年度使用額が生じた理由 |
他の研究プロジェクトへの参加、教育および校務の当初よりの増加により、エフォートと日程のかねあいから、長期調査を次年度へくりのべる判断を行ったため。
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次年度使用額の使用計画 |
これまでの調査の成果をいかして、国内の短期出張を中心に複数回計画する。とくに〈黒人〉と人種・民族表象についてのさらなる事例の収集・考察の深化のため、長崎および福岡、関西地方、函館に赴く予定であり、日程に余裕があればボストン、ニューヨーク、ワシントンへの調査出張を行う。
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