本研究は、現実の断片化と再結合としてのモンタージュをキー概念として、映画において「土地の記憶」がいかに映像化されているかを分析し、それがフロイト以降の思想状況とどう関連しているかを探求するものである。 その際、主たる分析対象として、ジャン=クロード・ルソーの『閉ざされた谷』『ローマの遺跡』、マルグリット・デュラスの『トラック』『インディアソング』、ペーター・ネストラーの『パチャママ』『ノルトカロッテ』、ルドルフ・トーメの『島の探求』、クラウス・ウィボニーの『シラクサ』などを取り上げた。ここで対象とした映像作家はいずれも今なお映画の最前線で活躍しており(デュラスに関しては編集者のドミニック・オーヴレイ)、本研究によって彼らと出会い、その技法、発想、「土地の記憶」をめぐる映画的思考についてインタヴューを行えた価値は非常に大きい。特にドイツ出身の三人の映像作家は、海外での評価は極めて高いにもかかわらず、未だ日本にはほとんど紹介されておらず、本研究がその先駆けとなった意義は大きい。これによって戦後ドイツの映画史の読み直しが進むことが期待される。 今年度は「映画における土地の記憶」研究を総括し一区切りをつけるため、この二年間に行なったインタヴューを整理し、「土地の記憶」をめぐる実験的試みを映画史の中に位置づける作業を進めながら、それと映像文化をめぐる現代思想との関連について検討した。 以上の成果は今後、学会誌、映画批評サイトなどに逐次発表してゆく予定である。
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