本研究が明らかにしたものは、その変容体験そのものは「かすかな移行」であり、存在の根本的な変容や思考の根本的な発展などではないということである。カタルシス体験のような一瞬の高揚は現実を大きく変更したように体験されるが、一方でその内実は発散的な作用にとどまる。しかし、ここで明らかになった変容体験は、高揚は伴わず、何かが大きく変わったとの自意識も生み出さない。それでいてその体験を経ることによって、客観的にはその体験者の生活が変わり、症状は消えはしないものの、もはや苦しい異物ではなく、その者自身の個性のようになる。そのような「かすかな移行」体験が、変容体験の本質であることが本研究から明らかになった。
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