研究課題/領域番号 |
26370192
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研究機関 | 広島修道大学 |
研究代表者 |
古川 裕朗 広島修道大学, 商学部, 教授 (20389050)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ドイツ映画 / ハンナ・アーレント / ハイデガー / 白バラ / ゾフィ・ショル / ナチ / ナショナリティ / アイデンティティ |
研究実績の概要 |
本年度は、ナチを題材とした映画で、かつドイツ映画賞(作品賞)を受賞した作品に関して、ドイツ・ナショナリズムの観点から2000年代と2010年代初頭の傾向をつかむことを目指し、2本の論文発表、1回の学会発表、資料収集のためのドイツ出張等を行った。 2013年に銀賞を受賞した映画《Hannah Arendt》を、その中に描かれたハイデガー像に着目しつつ分析した。その結果、ハイデガー像はドイツ・ナショナリティの偉大さと凡俗さの二重性を備えたものとして描かれていることが分かった。親ナチ的な演説を行ったハイデガーの「幼児」性はドイツ精神の凡俗さを示すが、一方においてハイデガー哲学それ自体は主人公アーレントによってドイツ精神の偉大さを示すものとしてナチズムの対極に置かれる。ハイデガー哲学は、ナチス・ドイツから切り離された正統なるドイツ・ナショナリティを示すものとして機能していたと言える。このことは論文「ドイツ映画《ハンナ・アーレント》におけるハイデガー像の解釈」として発表した。 次にナチ抵抗グループ「白バラ」を題材とした新旧の3作品について分析を行った。1983年に作品賞を受賞した旧「白バラ」映画2作については、これまでの白バラ像が備えていた自己犠牲的・贖罪的な神話像を踏襲する作品と、その神話像を崩す作品であったことが判明した。そして、この対照的な両作品の間では、ドイツ・アイデンティティの形成が混乱と困難を抱えていることが分かった。また2005年に作品賞を受賞した新「白バラ」映画《Sophie Scholl》については、80年代の旧「白バラ」映画における対立論点を止揚するものであったことが分かった。これらの内容は学会発表および論文「2つの旧“白バラ”映画を巡るドイツ・アイデンティティ」において公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、ナチを題材としたドイツ映画賞受賞作品に関して、2000年代と2010年代初頭のナショナリズム傾向をつかむことを目指し、特に2000年代の作品に重点を置いて研究を進める予定であった。その進展状況は概ね順調であり、その評価理由は次の通りである。 1)《Sophie Scholl》《John Rabe》《Hannah Arendt》に関し、ドイツ出張等を通じて必要な新聞記事等の資料を収集できたから。2)2000年以降の作品の特徴を明確化するために必要なそれ以前のDVDに関し、文字起こし、翻訳等を行って、作品構造の比較分析をし、論文の形で成果を公表できたから。3)白バラ運動に関する歴史文献を検証し、それと映画《Sophie Scholl》本体との照合分析を行い、学会発表の形で成果を公表できたから。4)主要3作品に関する作品の構造分析がおおむね終了し、さらなる歴史文献との照合、およびメディアの論調分析に進む準備ができたから。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に引き続き、ナチを題材としたドイツ映画賞受賞作品に関し、2010年代初頭におけるナショナリズム傾向の変容の行方を見定めるため、その準備段階として2000年代の傾向と2010年代の傾向の違いと連続性に関して明確化することを目指す。 《Sophie Scholl》《John Rabe》《Hannah Arendt》の3作品を引き続き主な考察対象として、次のような方針で研究を進める。1)歴史文献と作品本体とを照合して、ドイツ・ナショナリズムとの関係から作品の本旨を洗い出す。2)新聞記事等を分析して、ナショナリズムの観点からメディアの論調を把握する。加えて、3)適宜、新たな作品や過去の作品に関してDVDや歴史文献等の資料収集を行う。4)主要3作品の特徴を明確化するために必要となるその他の作品のDVD外国語文字起こしやセリフ翻訳を随時行う。さらに、5)研究成果を広く社会に発信するためにホームページの作成を行う。
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