研究課題/領域番号 |
26370201
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
土佐 朋子 東京医科歯科大学, 教養部, 准教授 (00390427)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 『懐風藻』 / 藤原宇合 / 本朝編年録 / 本朝通鑑 / 林羅山・鵞峰 / 今井舎人 |
研究実績の概要 |
1.林羅山・鵞峰『本朝編年録』『本朝通鑑』に引用された『懐風藻』本文、『本朝一人一首』に収録された『懐風藻』本文を、いわゆる林家系統とされる『懐風藻』伝本の本文とを比較対照させた結果、林家における『懐風藻』継承が複線的であるとの結論を得た。林家で『懐風藻』が所蔵され、史書編纂や漢詩文アンソロジー編纂に活用されていたのは確実であり、また伝本の書写も間違いなくなされていたと思われるが、それらは特定の本文の忠実な継承を意識して行われたのではなく、むしろそれら編纂および書写の過程で複数の本文が生み出されていった可能性が高いと考えられる。したがって、江戸初期の林家における『懐風藻』継承の過程で、複数の本文系統が生み出されたと考えられる。林家に伝来した可能性が高い昌平坂本・塩釜神社本・遼寧省本に共通の孤字が散見されるのはこのためであろう。また、同時に、この調査の過程で、『本朝通鑑』には本文が一部省略された抄本が存在し、江戸期にはその抄本のほうが流通していたと推定されることもわかった。 2.調査不足だった写本に関する調査を行い、版本への書入状況に関する調査を継続した。今年度は、島原市立図書館、松平文庫久留米市立図書館、国立民族学博物館、関西大学付属図書館、天理大学付属天理図書館、奈良教育大学付属図書館、足利学校遺跡図書館に所蔵されている伝本の調査を行い、書入の有無とその内容とを確認した。 3.『懐風藻箋註』の著者今井舎人に関する調査の継続で、今井舎人が鈴木真年であることの証明となる文献を、天理大学付属天理図書館と国立歴史民俗学博物館で新たに発見することができた。 4.『懐風藻』所収の作品について、本文系統の調査で得られた結果をふまえて、解釈を試みることができた。特に、藤原宇合「悲不遇」詩に関する考察内容と結論とをまとめることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.調査不足であった写本の調査と版本の調査をおおむね計画通り行うことができた。1本まだ調査できていない写本があるが、これについては27年度の早いうちに調査を行う段取りができている。 2.また、『懐風藻箋註』に関する研究も、今井舎人関連の新資料を見出すことができ、進展させることができた。 3.大東急記念文庫所蔵寛政5年版本への書入調査も完了し、その結果をまとめることができた。すでに掲載が決定し、刊行に向けた準備中である。 4.『本朝編年録』『本朝通鑑』『本朝一人一首』に引用・採録された『懐風藻』本文を通して、林家が『懐風藻』の新たな本文を生み出した場であった可能性を見いだせたことは、今後の本文系統の考証にとって大きな収穫であった。 5.古筆切の調査については、必要な資料をおおむねそろえることができた。 6.これら『懐風藻』の本文系統に関する調査を踏まえて、『懐風藻』所収の作品に関する考察も進めることができ、8世紀の律令官人による漢籍受容と漢詩文創作の状況について研究を進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
1.26年度に調査ができなかった写本1本の実地調査を行い、版本調査を継続する。九州大学付属図書館、柳川資料館などを計画中である。 2.これまでの論考に、今井舎人に関する調査結果をさらに付加し、『懐風藻箋註』に関する研究を仕上げる。 3.野間三竹『本朝詩英』所収の『懐風藻』本文の性格を、当時すでに存在していたであろう諸本と比較対照させ、考察する。これは、江戸初期における『懐風藻』伝来を考察するのに必要な検証である。また、古筆切の中に『懐風藻』関連のものがないかどうか、収集した資料を活用しながら調査を開始する。 5.これまで得られた本文に関する調査結果を踏まえて、『懐風藻』の漢詩作品の研究を継続していく。これは、最終目標である8世紀律令官人による漢籍受容と漢詩文創作の状況を明らかにするために必要である。また、最善本文を考察するうえでも、作品全体の文脈としての妥当性を踏まえた判断をするために必要である。
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