研究課題/領域番号 |
26370203
|
研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
西村 聡 金沢大学, 歴史言語文化学系, 教授 (00131269)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 近世能楽史 / 地方能楽史 / 加賀藩 / 泉鏡花 / 宝生九郎 / 謡曲義解 / 笈摺草紙 / 照葉狂言 |
研究実績の概要 |
加賀藩で著述された謡曲注釈書『謡曲義解』(金沢市立玉川図書館近世史料館稼堂文庫蔵)6冊11番の内、第5冊「卒都婆小町」の翻刻を行い、その最も大きな特徴である鈴木正三改作「面影小町」、『謡曲義解』の著者による改作「有明小町」を原作と比較して、それぞれの主張を明確に把握する考察を行った。二つの改作は原作本来の主題を解さず、継承しない改作と言えるが、原作の主題論を見直す視点を提供するところに『謡曲義解』の注釈史上の存在意義が認められるとした。その具体的な考察を解題として付し翻刻を『金沢大学歴史言語文化学系論集言語・文学篇』第8号に掲載した。従来名前のみは知られていたが、その内容に踏み込んだ考察や翻刻本文の提供は初めてのことである。また、泉鏡花の小説『笈摺草紙』について、その虚構が従来指摘される史実、金春金之丞のモデルが中田万三郎であり、前田慶寧の金沢・卯辰山開拓に重ねた鏡花のファミリーロマンスであるとの読み方を検討し、金春金之丞に近い人物は金春伝蔵であり、浜の摩耶寺は松任・行善寺ではなく親不知近くの浜であるべきこと、その親不知近くの寺で少年が親を知らないことに意味があり、小説の城下や三次郎の蓑岡山開拓とのむしろ相違点に注目すべきことを論証した。このほか、金沢能楽美術館の連続講座(全5回)において加賀宝生の変遷を本研究課題の成果(新見・新資料)を踏まえて一般市民向けに講演した。能の作品の比較文学的考察や泉鏡花『照葉狂言』についても新しい見解を打ち出し、シンポジウムや講演会で発表するとともに論文化した。掲載は次年度になる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
中国文学の上田望氏とともに東アジア古典演劇研究会を発足させ、種々研究会を企画・開催し、加賀藩時代の能楽史に関することや近代文学における能の受容、中国古典演劇の変遷と社会変動との関係などに新しい知見を得られた。また従来ほとんど研究されてこなかった『謡曲義解』の一部を翻刻し、その特徴を具体的に把握できたこと、幕末・維新期の能楽の状況の反映を『笈摺草紙』の中で正確に読み取ることができたことなどによる。
|
今後の研究の推進方策 |
幕末・維新期の社会変動による能楽の変容に注目し、今様能狂言など非体制的能楽との接触・越境の問題や、空白期の旧藩主の関与を明確にする方向で本課題の重点を絞り込んでゆく。なるべく他分野の研究との協働を心掛け、根拠資料を明示し体系化するつもりでいる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
年度末に購入した物品費が予想額を下回ったため。
|
次年度使用額の使用計画 |
今年度の計画実施に必要な物品費として有効に利用する。
|