研究課題/領域番号 |
26370205
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
樋口 百合子 奈良女子大学, 古代学学術研究センター, 協力研究員 (90625493)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 歌枕名寄 / 流布本 / 非流布本 / 刊本 / 萬葉集 / 中世名所歌集 / 近世名所歌集 / 澄月 |
研究実績の概要 |
初年度にあたる今年度は、『歌枕名寄』の別本の、基礎データ及び情報の収集に重点を置いた。『歌枕名寄』は現在二十本以上残っているが、完本は六本に過ぎず、多くは欠本、残欠本、零本である(他に断簡が数葉あり)。その中でも10本以上が未だ研究対象とされていない。そこでまず、各所蔵機関(本年度は内藤記念くすり博物館大同薬室文庫、松浦武四郎記念館(重要文化財)、国立歴史民俗博物館(田中穣本、高松宮伝来禁裏本)、学習院大学付属図書館、明治大学付属図書館、九州大学付属図書館支子文庫、神宮文庫、皇學館大學付属図書館、酒田市立図書館光丘文庫、国文学研究資料館)に赴いて、諸本を調査し、紙焼写真、デジタルデータなど、所蔵先の様式に従って可能な限り収集・整理した。これらについては、『歌枕名寄』の伝本の中でどの系統に属するか(写本系か刊本系か、写本系ならば流布本系か非流布本系か、或いはそのいずれでもない系統か)を明らかにした。さらに刊本成立後も刊本を書写する作業が行われ、刊本だけを忠実に写すのではなく、筆者の立ち位置により、内容に手を加えている書写伝播の状況や、それはおそらく最も新しい書写と思われる学習院大学付属図書館蔵雕蟲居本まで行われていたことなどを明らかにした。この雕蟲居本については、翻刻を終わり、内容について論文化を進めている。またすでに翻刻されている長崎県立対馬歴史民俗博物館蔵本(佐野宏他「〈翻印〉対馬歴史民俗資料館宗家文庫蔵歌枕名寄」)については「『歌枕名寄』の継承と変遷―対馬歴史民俗資料館宗家文庫蔵本をめぐって―」として『歌枕名寄』の継承の中での変遷を考察した。つぎに100首ほど所収されている万葉歌に焦点をあてて考察し、中世万葉集享受のあり方まで広げ考察を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
別本のおおよその情報を入手し、状況を把握するために、初年度はできるだけ多くの機関に赴き(10機関)、予想以上に多くの紙焼写真やデジタルデータを収集することができた。このうち初めて実見した八本については一本(酒田市立図書館光丘文庫)を除き、その系統を明らかにすることができた。光丘文庫本は断簡一葉で、情報が不足しているので、筆者池田玄斎に関する情報が必要である。それでもこの断簡一葉を有する『病間雑抄』72冊を丹念に見ると、『歌枕名寄』を友人の田中某に借りたことを記した一節があり、田中某が『歌枕名寄』を所持していたことが確実であること、田中は地理に通じていたらしいことなどが明らかとなった。玄斎の筆による文献はまだ多くのこされているので、次年度以降にそれを調査し、『歌枕名寄』の継承の過程を考察する。これらの調査のため、論文にまとめる時間が不足したので、次年度は入手した資料を詳細に検討したい。
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今後の研究の推進方策 |
推進方策に変更はない。入手した資料を詳細に調査(必要なものは翻刻する)し、内容、地名や所収歌の削除と増補の様相、更に万葉歌の検討を通じて、『歌枕名寄』別本間の関係、継承と変遷の過程、他のどの名所歌集の影響を受けたか、どの名所歌集に影響を及ぼしたかなども調査し、中世から近世における名所歌集の和歌文学史上中での位置なども考察してみる予定である。また、いまだ実見し得ていない、八戸図書館蔵本及び、新潟大学付属佐野文庫本を調査する。佐野文庫本は『『歌枕名寄』伝本の研究』に加えているが、紙焼写真のみでいまだ未見である。熊本大学付属永青文庫本(細川本)は実見し、論文にもまとめたが、手元には古い写真のみである。この写本中の万葉歌は朱書の訓が多くあり、諸本間の所収万葉歌の比較検討をする際には重要であるので、再度紙焼写真を入手し、朱書を確認することが必要となろう。
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