中世最大の名所歌集『歌枕名寄』の未調査の写本11本を調査し、その系統を明らかにし、その書写の過程で、それぞれの時代の文学的成果を取り入れながら、増補と略抄を繰り返し、常に変動していく歌集としての特性を解明した。さらに所収萬葉歌、特に長歌の『歌枕名寄』写本間の異同及び、萬葉集古写本との比較から、『歌枕名寄』所収の萬葉歌は、紀州本(巻十まで)に類似する非仙覚本に依拠するが、それと異なる漢字本文・訓を持つこと、仙覚訓と異なる新点歌を多く所収し、新点歌のかなりの数の歌が、仙覚以前にすでに付訓されており、それはこれまで明らかにされた歌数をはるかに上回るものであることを明らかにした。
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