大和・紀伊両国に関わる巡礼記・参詣記とその関連資料の博捜および分析という観点について、本年度は下記の3点を主たる業績とすることができる。 第1には道成寺とそこに蔵される典籍・文書類の調査および研究に関わるものである。本研究計画の途中より、道成寺経蔵資料の調査・研究を中心軸のひとつに据えてきたが、その成果を学術論文の刊行によるのみならず、代表者が在籍する和歌山大学の紀州経済史文化史研究所(博物館相当施設)における特別展「道成寺の縁起―伝承と実像―」(2016年11月8日~12月16日)を開催し、図録(論文付)を制作・刊行した。本研究計画が終了した後にも調査・研究は継続しており、今後、さらなる成果が見込まれる。 第2に、大和・紀伊に関連する巡礼記・参詣記および寺社縁起に関する調査研究についての成果である。悉皆調査は実現できていないが、粉河寺・施福寺・興国寺・長保寺に所蔵される文献についての基礎調査の進展である。特に粉河寺に関しては、これまで学界からまったく注目されていなかった東京大学史料編纂所蔵『粉河寺旧記』(既に紹介されるものとは異なるもの)に謄写される縁起および説話集を紹介する口頭発表を行えたことは特に意義深い(研究期間終了後の資料紹介を予定)。また、それ以外の三箇寺についても研究期間終了後にいたるまで調査を継続している。 第3に、院政期における寺伝・僧伝を考える上で不可欠な私撰国史(殊に扶桑略記)の伝本調査と分析研究を行なえた点にある。これらには、現在では散逸してしまっている巡礼記・参詣記も引用され、その点においても本研究と深く関わるが、研究機関内に公刊した学術論文で言及した巻二十(陽成天皇紀)は高野山に伝来した伝本と関わり、高野山上における伝記類の扱いを考える上でも意味が大きいと思われる。
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