研究課題/領域番号 |
26370211
|
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
小川 剛生 慶應義塾大学, 文学部, 准教授 (30295117)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 作者部類 / 勅撰和歌集 / 官職位階 / 兼好 / 禁裏本 / 人名表記 / 身分階層 |
研究実績の概要 |
○27年度は、京都大学附属図書館・宮内庁書陵部・国文学研究資料館・国立公文書館・名古屋市立鶴舞中央図書館・八戸市立図書館・天理大学附属天理図書館・早稲田大学図書館など各地の所蔵機関に赴いて、勅撰作者部類の諸本を改めて精査し、主要な伝本は紙焼き写真を購入した。 ○上記所蔵機関の伝本の調査を基礎として、50本近くの諸本について系統分類と本文批判を進め、ほぼ結論に至った。伝本としてはほぼ一系統であり、宮内庁書陵部蔵の江戸前期書写の所謂禁裏本が最も安定しているが、早稲田大学図書館蔵の中院家旧蔵本が校合に有用であることが判明した。江戸時代の武家社会や国学者で関心を持たれたため、かつて藩校や大名家文庫に蔵される伝本も多いが、それらは内閣文庫蔵林家本に端を発していて、誤写や改竄も目立ち、あまり信頼できない。さらに複雑であるのは江戸期になって、原本にはない三集の作者を増補した続作者部類や、あるいは改編作者部類といった、分類排列の原理を異にする伝本が生じたことで、これらは弁別して整理すべきである。以上の考察を、論文「勅撰作者部類の成立 「作者部類」と題する一群の写本について」にまとめて公表した。 ○作者部類に附属する、いわゆる「作者異議」についての本文の再吟味を開始した。これは編者が勅撰集作者の伝記や人名表記について特に別書として考証したものであるが、実は「作者異議」はその実は部分的な標題に過ぎず、名称の再検討が必要である。 ○その他古典文学作品を中心として中世文献における人名表記の原則についての研究を進めた、ことに徒然草の作者とされる「卜部兼好」に焦点を当て、その史料上の表記について考察した。その成果はいくつかの学会で発表し、また論文「卜部兼好の実像 金沢文庫古文書の再検討」にまとめた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の大きな目的であった、勅撰作者部類の伝本調査と諸本系統の研究はほぼ完了することができ、その考察を論文として刊行することができた。そしてこの作者部類はまず身分階層別に、ついで初出勅撰集順に歌人を分類するが、各項目内での排列には、当時は知り得た官位年臈を基準とする傾向があることが分かった。過去の歌人たちを分類し排列する原理を知ることで、伝記研究に役立てる道筋が見えて来た。さらに改編本や増補本との複雑な関係も明らかになった。
|
今後の研究の推進方策 |
○28年度は、研究の総仕上げとして、勅撰作者部類の簡略な校本と、所載の人名索引を編纂する。論文集として刊行するべく、出版社と協議する。 ○南北朝時代の未刊の公家日記である迎陽記第二冊の編纂に当たって、この研究の成果を生かして、人名の比定を行い、また第一冊と併せての人名索引を編纂する。 ○以上のような研究の実績に基づき、古典文学作品中の、主として官職による人名表記の原則について、一般読書に向けた概説書の刊行を準備する。
|