本研究は、『万葉集』の研究の基礎となる漢字本文および訓読の検討・考究に資するため、これまでの諸注釈書における漢字本文と訓読のデータベース化を行い、本文校訂・訓読の問題点の発見を容易にし、『万葉集』研究の進展に寄与することを目的としている。 最終年度となる平成30年度は、『万葉集』の注釈書における漢字原文と訓読について、データの整備を行うとともに、検索・参照のシステムの完成を目指しての作業を行った。結果、暫定的にではあるが、『万葉集』の歌の訓詁・注釈のありようを簡便に参照することが可能なシステムの構築に至った。その成果については、さらに精度を上げたうえで、著作権の問題に細心の注意を払いつつ、公開に向けての作業を続けて行く予定である。 また、注釈史参照システムを構築し、『万葉集』の〈読み〉を進展させる研究の副産物として、『万葉集』中に見られる「なへに」という語を用いた歌における独特の表現性を広く考察した論考、「万葉集『なへに』の表現性――人麻呂「泣血哀慟歌」に触れて――」を『万葉集研究 第三十八集』(塙書房刊、2018年12月)に発表した。さらに、『万葉集』の〈読み〉を深め、研究を進展させてゆく一助とするべく、研究分担者と共編著で、『万葉集』を〈読む〉ための方法論について、これまでの方法論を振り返り、その問題点を考え、それぞれの方法論の未来を論じた研究書、『万葉をヨム 方法論の今とこれから』(笠間書院刊、2019年5月)の出版を行った。
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