本研究は、後水尾院品宮常子内親王自筆の日記『无上法院殿御日記』三十六冊(陽明文庫蔵)を主たる研究対象とした。「研究の目的」は三点であった。第一は、『无上法院殿御日記』の全文翻刻作業を進めること、第二は、後水尾院品宮常子内親王の視点から捉えられた文芸活動の実態を明らかにすること、第三は、近世前期の近衞関白家を中心とする文芸圏の存在を証明すること、であった。これらの目的を達成するための「研究実施計画」として、各年度の重点研究テーマを設定した。平成26年度は「『无上法院殿御日記』の原本調査と資料判読」、平成27年度は「後水尾院品宮常子内親王周辺の文化的活動に関する資料報告と文学的価値」、平成28年度は「近世前期近衞家の文事に関する報告」であった。 最終年度の平成28年度は、前年度までの研究を近衞家全体の文事に捉え直すため、後水尾院品宮常子内親王周辺の文学的事象を裏付ける資料を調査した。とくに、「天英院自筆消息」(陽明文庫蔵)を検討し、後水尾院品宮常子内親王の女である近衞凞子が、近衞家のために果たした文学的役割を考察した。さらに、中古文学会関西部会第44回例会(2016年9月3日京都学園大学にて開催)において、口頭発表「天英院近衞凞子について」を公表した。江戸時代の公家、とりわけ女性の文学的な活動の実態の一端を明らかにすることができた。 研究期間全体を通じて、『无上法院殿御日記』の資料的意義を確認し、後水尾院品宮常子内親王とその周辺の人物の文学的活動の一部を解明できたことは意義深いと考える。
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