研究課題/領域番号 |
26370224
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研究機関 | 国文学研究資料館 |
研究代表者 |
小林 健二 国文学研究資料館, 研究部, 教授 (70141992)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 幸若舞曲 / 絵巻 / 絵本 / 屏風絵 / 舞の本 / 能 / 狂言 / 在外資料 |
研究実績の概要 |
本計画は、室町後期に流行した語り物芸能である幸若舞曲が、江戸期に入って芸能としては消滅したが、絵巻や絵本、屏風絵など視覚文芸として新たに享受された様相を具体的にとらえ、文化的な展開を明らかにすることを目的とする。 幸若舞曲の絵入り本に関しては、すでに基礎的研究として、現在確認される作例を「幸若舞曲の絵入り本一覧稿」(『中世劇文学の研究―能と幸若舞曲』平成13年)として作成しており、本年度はそれ以降に発見紹介された資料を捜索し、リストの一層の充実化をはかった。 今回新たに、石川透氏蔵の「しずか」絵本、同「百合若大臣」絵巻、同幸若舞曲関係の絵本断簡、徳田和夫氏蔵の「堀川夜討」図、富山県黒部市宮崎記念館の「敦盛」絵巻、京都市古裂会に出品された「源平図扇面貼交屏風」(「堀川夜討」「笈捜し」がモチーフの扇面画)などを調査と撮影し、一覧に加えることができた。宮崎記念館の絵巻資料は幸若舞曲の「敦盛」ではなくお伽草子の「小敦盛」であったが、体裁(小絵巻)や内容などから重要な伝本の一つである可能性を有するもので、今後詳しく検討を加える予定である。 また、8月29日にスロベニア共和国のリュブリャナ大学で行われたEAJS国際研究集会でシンポジウム「変革期における幸若舞曲の展開―絵画化を軸として―」を企画し、ケラー・キンブロー(コロラド州立大学デンバー校)、パトリック・シュウェマー(法政大学能楽研究所研究員)、井戸美里(東京大学東文研助教)の三氏とともに研究報告を行ない、幸若舞曲の視覚化と文化展開について問題提起をするとともに、国内外の研究者と有意義な意見交換を行った。 さらに、同時代の芸能である能・狂言の絵画化にも着目し、幸若舞曲との位相を比較検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①幸若舞曲を題材にした絵巻・絵本や屏風絵の調査と研究の成果としては、個人蔵や展示会に出品された学界未紹介の作例を調査研究し、基礎的リストである「幸若舞曲の絵入り本一覧稿」に追加することができた。 ②本年度において最も進展した事項は、スロベニアのリュブリャナ大学で行われたEAJS国際研究集会でシンポジウム「変革期における幸若舞曲の展開―絵画化を軸として―」をコーディネイトして、ケラー・キンブロー、パトリック・シュウェマー、井戸美里の三氏とともに研究報告を行なったことである。そこにおいて『舞の本絵巻』の内容と研究課題について述べ、海外における所在の情報提供を呼びかけたところ、未見の資料であるドイツのベルリンの東アジア美術館に所蔵される「烏帽子折」絵巻について、複数の海外研究者から詳しい情報を得ることができた。 ③幸若舞曲の絵入り本に付随して、同時代の芸能である能や狂言の絵入り本も調査することができた。とくに国文学研究資料館に新しく所蔵された狂言絵については、詳しく検討を加え、国文学研究資料館影印叢書『狂言絵 彩色やまと絵』として刊行した。それにより、語り物である幸若舞曲とセリフ劇である狂言の絵画化の相違について具体的に分析することができた。
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今後の研究の推進方策 |
①今後も「幸若舞曲の絵入り本一覧稿」をもとに、追加された資料を中心に諸作例の調査研究をすすめて行くが、平成27年度は『舞の本絵巻』について本格的な検討を加える予定である。そのため、昨年度、ヨーロッパで収集した情報をもとに、ベルリンの東アジア美術館に所蔵される「烏帽子折」絵巻の調査を行い、諸本間における位置づけをはかりたい。 ②「舞の本」36番は絵巻だけでなく奈良絵本にも作られているので、その最大の作例である海の見える杜美術館所蔵の奈良絵本『舞の本』47冊の調査を行う。 ③本研究は室町末期から江戸初期における芸能の絵画化を具体的にとらえ、その文化的展開について究明することが目的であるので、幸若舞曲と平行して同時代の芸能である能や狂言の絵巻・絵本の調査も行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
2014年度に実施する予定であったベルリンの東アジア美術館の調査が、先方の都合などで行えなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
前年度に行えなかったベルリンの東アジア美術館の調査にあてる。
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