研究課題/領域番号 |
26370225
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研究機関 | 国文学研究資料館 |
研究代表者 |
齋藤 真麻理 国文学研究資料館, 研究部, 准教授 (50280532)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 中世文学 / 説話文学 / 絵巻 / 類書 |
研究実績の概要 |
本研究は、中・近世にかけて隆盛した奈良絵本をめぐり、従来は等閑視されがちであった版本文化に注目することで絵入り本生成の基盤を再検証し、併せてこの時代の学芸の特質を考究しようとするものである。とりわけ、多くの挿絵を伴う中国明代の日用類書は、奈良絵本の異界表現にも影響したと思われるものの、中国文学研究の立場から一部の善本が公刊されているに過ぎない。 そこで平成26年度は、これまで公刊されていない陽明文庫本の日用類書全20巻を中心に調査研究を行い、詳細な書誌データを作成した。また、『中国日用類書集成』(汲古書院、2003)に収録される6伝本の挿絵および文字情報を整理し、File Maker Proによるデータベース構築の基礎作業を行った。 一方、福岡市美術館蔵『異代同戯図巻』に所載の故事人物や異類、異界表現について上記データ等と比較検討し、典拠と目される説話や先行する絵画作品の作例を考証し、データを集積した。併せて、ギメ美術館や大英図書館をはじめ、海外の諸機関の目録類を調査し、同趣の狩野派の戯画に関するデータを蓄積した。 以上を推進する過程で、新たなテーマも浮上してきた。それは、漢籍のみならず、明代の絵師が描いた絵画作品も我が国の学芸や絵画に影響を与えた可能性である。その好例は、近世前期の土佐派の代表的な絵師光信の「秋草鶉図屏風」(重要文化財)であり、制作の企図や奈良絵本の絵画表現との関連性も含めて拙稿「室町の学芸と絵画ー鶉の九助のこと―」(『国文研ニューズ』37号、2014年10月)に報告した。この問題は、今後さらに考究すべき課題と考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画では、十分にデータを集積した上で、1月から2月にかけ、フランスのギメ美術館へ原本調査に行く予定であった。しかし、先方との日程等の調整が難航したことに加え、1月上旬には治安上にやや不安材料も生じたため、出張を見合わせた。平成27年度秋頃には調査を行うべく、改めて調整を進めているところである。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度の調査データをまとめつつ、データベースのブラッシュアップを行う。 ギメ美術館に所蔵される狩野派の戯画図巻を調査し、福岡市美術館本との比較検討を行う。 また、ニューヨーク公共図書館スペンサーコレクション蔵『山海異物』について、同類の奈良絵本が東京大学や天理図書館、個人(関東地方)に所蔵されていることが分かっていることから、それらの調査研究を進め、異類・異郷の表象と明代日用類書との関連性を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
フランスのギメ美術館への調査出張を次年度に延期し、旅費の一部を書籍購入に充てたため。
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次年度使用額の使用計画 |
研究遂行上、必要な書籍を先に購入し、データ集積を先行させた。このデータを踏まえ、平成27年度中にギメ美術館調査を行う予定。
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