狩野派の戯画について諸本調査を行い、データの整備を行った。当該の資料には、本来の在り方を反転させた諧謔味に満ちた神仙、高僧、歴史上および文学史上の著名な人物、異類等が登場し、首引きなどの遊戯に興じるさまなどが描かれている。このような遊戯は風俗画等にも受け継がれてゆくモチーフであり、今後、画題構築史を考究する上の基礎資料となることから、抽出したデータをデータベースのかたちで整理した。 これらの作品群が、神仙伝などの挿絵を伴った漢籍と密接な関連性を有していることも判明した。そのため、神仙伝に類する明代版本の調査研究を行い、その書誌および挿絵のデータを抽出して、上記のデータベースに収載した。戯画に描かれた人物については、関連する絵巻や奈良絵本の調査研究を行ったが、とくにパリ国立図書館に所蔵される貴重書については、調査で得られた成果の一端をシンポジウム「日本の絵物語の世界」(2017年8月4日、於チェスター・ビーティー・ライブラリィ、アイルランド)において発表した。 さらに、『万国人物図』などの地図や説話・絵画資料から異国の表象と言説を抽出し、比較検討を行った。とくに明代の日用類書は、実在・非実在の国々に関する挿図と解説文が収載されているが、諸本系統は複雑を極め、本文表記にゆれが生じている。そのゆらぎが室町物語の生成にも関与した可能性が考えられる。論文「渡海の絵巻ーいけのや文庫蔵『御曹子島渡り』-」(『国文学研究資料館紀要 文学研究篇』44号、2018年3月)はその研究成果の一端である。 なお、異類・異界表現をめぐる研究成果は、人間文化研究機構が一般向けに開催しているシンポジウムでも公表し、「妖怪たちの秘密基地ー付喪神の絵巻からー」(『人間文化』27号、2017)として発表、成果の社会還元にも努めた。
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