中・近世に量産された奈良絵本や絵巻の研究をめぐっては、従来は版本文化との関連性は等閑視されがちであった。本研究ではその版本文化を主軸として、室町物語等の作品生成の基盤や動態を検証した。その結果、中国明代に大量に出版された日用類書が奈良絵本の表現に影響を及ぼしていたことが明らかとなった。 また、明代の類書に見られる故事人物画の表象は、ギメ美術館(フランス共和国)等に所蔵される狩野派の戯画にも多大な影響を与えていたことが判明した。 以上の調査研究を通じて、中・近世日本における学芸史の特質の一端が明らかになった。
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