本年度は、遅れていた伊藤永之介の作品一覧を含んだ年譜の作成を、これまで集めた資料や作品をもとに作成し、下記のように、インターネットで公開をした。 http://www.zinbun.kyoto-u.ac.jp/~fujihara/伊藤永之介年譜.pdf この年譜は、いくつかの雑誌の追悼号を参照に、伊藤永之介の辿った人生のイベントを明らかにするとともに、伊藤永之介の執筆した単行本をほぼすべて掲載した。本の簡単な紹介を年譜に加える作業については、今後の課題としたい。 さらに、伊藤永之介の世界史的位置付けを考えるにあたって、イタリア、シチリア島で、伊藤永之介と類似の手法によって、農民小説を描いたジョヴァンニ・ヴェルガの小説との比較をするために調査を行った。遅れてきた資本主義国家の農民世界へのしわ寄せについて、共通する描き方を知ることがでsきた。 また、2017年1月27日には、京都大学人文科学研究所で開催された「現代/世界」研究班で、伊藤永之介の「どぶろく」論について、ほかのテーマとともに報告をした。伊藤永之介が、代表作『梟』によって描いたどぶろくの売買、密造の世界が、屑米の再利用という物質循環の世界、厳しい農村環境のなかでの娯楽の世界、法律と生活のはざまという例外状態と結ばれていることについて、分析した。どぶろくと法律、どぶろくと生活をめぐっては、すでに『どぶろく物語』『ええじゃないかドブロク』『どぶろくと抵抗』などの書籍を通じて、分析することができた。伊藤永之介作品の描いた、法律と暮らしのはざまの世界は、単に作品の内部にとどまるのではなく、実際の(とくに近代秋田の水田地帯の)生活世界との緊張関係のなかに描かれていることを明らかにすることができた。これによって、文学研究と歴史研究のあいだに、一本の橋を架けることができたと考える。
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