伊藤永之介の描いた東北地方の農村分析によって、わたしは、近代日本の開発政策におけるある重要な性質について明らかにすることができた。それは、開発を進める日本政府が、単に、農村住民の生活世界を破壊しただけではなくて、農村内外の非合法的な世界に対する農村生活者の柔軟な対応力に頼っていた、という点である。たとえば、農村住民たちは、開発政策と不況で苦しむなかで、非合法でどぶろくを作り、販売して苦境を凌いだり、軽犯罪をおかしてわざと逮捕され、一時的に苦境から脱出したりしていた。伊藤文学は、いかに農村住民たちが日本のダイナミックな開発政策を生き延びたのかについて、生き生きとかつコミカルに描いているのである。
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