平成29年度は、朝鮮半島で刊行された俳誌の国内所蔵調査に力点をおき、朝鮮俳句の傾向分析を補完した。朝鮮俳人の育成指導することに定評があったとされる木浦の俳誌『かりたご』など数誌の資料調査と検証を通じて、1935年前後から朝鮮俳壇にも時局に準じた翳りがみえることを確認した。それとともに、旧在朝鮮日本人の敗戦後の俳人脈の展開や、敗戦/解放後の韓国俳人との交流、および日韓の伝統詩歌の比較などにかんする資料調査を実施して、本研究の基盤となるデータを補足した。同時に、朝鮮俳句との比較から旧満州地域のホトトギス系俳句の動向についても検証作業を継続した。 平成29年度の成果としては、平成28年度報告にも記載したとおり、『在朝日本人の日本語文学史序説』(韓国ソウル:図書出版ヨンラク、2017年6月)に「在朝日本人と朝鮮俳句―石島雉子郎と楠目橙黄子を中心に」(pp.95-103)と「1930年代の朝鮮俳壇―朝鮮郷土色の議論と俳句雑誌『草の実』を中心に」(pp.310-318)を掲載している。前者は、石島雉子郎から楠目橙黄子へと受け継がれるホトトギス系俳句の動向を中心に1910年代の朝鮮俳句の動向を論じたもの、後者は、1930年代の中心的な俳誌である『草の実』に焦点をあてて、1930年代の朝鮮俳壇を検証したものである。 上記に記載した1930年代の朝鮮俳人および解放後の韓国俳人にかんする俳人脈をめぐる文化交流の検証や、ホトトギス系俳句を中心とした朝鮮俳壇と旧満州地域の比較考察については、今後の課題として継続して取り組む予定である。
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