研究課題/領域番号 |
26370243
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研究機関 | 県立広島大学 |
研究代表者 |
下岡 友加 県立広島大学, 人間文化学部, 准教授 (30548813)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 日本語文学 / ポストコロニアル文学 / 台湾史 / 黄霊芝 |
研究実績の概要 |
今年度の研究実績としては主に次の三点があげられる。 まず第一点目として、黄霊芝の創作全体に目配りし、そこに通底する方法、彼の文学の特徴についてまとめた論考を発表した。具体的には「日本語は誰のものか?―ポストコロニアル台湾の日本語作家・黄霊芝の方法―」と題して、『フェンスレス』第2号(2014年6月)に掲載した。戦後の台湾で日本語で書くことの意味やそこに託された心境を明らかにするとともに、黄霊芝文学の持つ諧謔性について具体的に作品に即して論じた。 次に第二点目として、黄霊芝自身の発言を記録し、公にした。具体的には、2012年7月15日及び同年9月16日にインタヴューした内容を「戦後台湾の日本語作家の声 黄霊芝氏インタヴュー(3)」として『県立広島大学人間文化学部紀要』第10号(2015年3月)に掲載した。このインタヴューでは多くの人名が語られ、不明な点も多かったが、黄自身への追加の聞き取りや各資料館での調査等を経て、より正確な情報に基づく内容を公表することができた。 最後に第三点目として、黄霊芝の小説・童話・俳句の選集を日本で刊行するための準備を行った。黄の許可を得て、彼の小説7編、童話4編を選び、さらには書き下ろしの自選俳句百句の原稿を黄から受領し、その本文データを振り仮名や注をつけて入力した。これらは『戦後台湾の日本語文学 黄霊芝小説選2』として来年度中に公刊する予定である。この書の刊行により、現在はまだ認知が十分とは言えない黄霊芝研究のための基礎的資料を広く提供することができると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実施計画に記した内容三点のうち、二点までが既に成果をあげているため、本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。具体的には「黄霊芝自身の発言を記録し、公にしていく」「『戦後台湾の日本語文学 黄霊芝小説選2』の刊行に向けて入力作業に入る」という二点がこれまで順調に進められている。さらに加えて、黄霊芝文学に通底する方法、その総体を明らかにする論考も発表したという点から見ても、研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究を引き継ぎ、以下の三点から研究を推進していく。 1、『戦後台湾の日本語文学 黄霊芝小説選2』を刊行する。作品本文を公表するだけでなく、これまでの研究・調査の成果に基づいた「解説」を執筆し、書籍として刊行する。 2、他作家との比較、或いはこれまでに十分に論じられていない作品を分析対象として、黄霊芝の創作方法の具体、特質を精密に明らかにする。 3、ポストコロニアル研究の蓄積と接続し、黄霊芝の文学営為の位置づけをはかる。 さらに、2、3の成果をまとめて近い将来、研究書として刊行できるように準備を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は研究対象者である黄霊芝の体調不良により、インタヴューの機会が一度しか得られず、必然的に旅費を使用する機会が減ったため。
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次年度使用額の使用計画 |
5月に予定されている東京での研究成果発表(学会発表)の旅費、ならびに研究成果の一部として刊行する予定である『戦後台湾の日本語文学 黄霊芝小説選2』印刷費用に充てる。
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