研究課題/領域番号 |
26370246
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研究機関 | 専修大学 |
研究代表者 |
板坂 則子 専修大学, 文学部, 教授 (30134266)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 春本 / 戯作 / 曲亭馬琴 / 国際情報交換 / イギリス |
研究実績の概要 |
江戸後期から幕末期に掛けて出された一連の艶書往来がある。十返舎一九の『文しなん』 に端を発し、陽起山人(溪斎英泉)による『文のはやし』によって広まったこの艶書往来は、改刻改題を重ね、江戸から明治中頃に掛けて、広く享受された。現時点での調査結果では、内容的にほぼ十種類ほどに分類できるが、すべて同形式の似通った書誌事項と内容を持ち、それぞれの名称は「文のはやし」とされることが多い。今年度はこれら「文のはやし」の蒐集を続け、ほぼ40種を集めた。また立命館大学ARCセンター所蔵本、国文学研究資料館所蔵資料ならびにマイクロ資料、そして専修大学向井文庫所蔵のものを併せてほぼ60種を調査し、その系統を調べた。おそらくこの「文のはやし」が最も多く市井に流布した艶書であったと考えている。 また、国際日本文化研究センターへの出張調査で、中世の春画絵巻『袋法師絵巻』を考察し、そこから『小柴垣草紙』と共にこれらの春画絵巻がどのように内容的に分類成長していったかを考究した。国際日本文化研究センターでは、その他の著名な春本も調査し、主として江戸中期の春画絵本の形態の基礎事項を調べた。 さらに江戸期の戯作者作成の春本、戯作のパロディ春本の研究を行った。たとえば曲亭馬琴『南総里見八犬伝』の艶本化作品『恋のやつふじ』は数種の版を持ち、また他に、『枕辺深閨梅』(『新編金瓶梅』の艶本化作品)、『佐勢身八開伝』(『南総里見八犬伝』のパロディ艶本)など、馬琴関連の春本を蒐集、研究中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「文のはやし」と総称する艶書往来については、それ以前の艶書関係の往来物も含めて、ほぼ調査対象を集め終え、分析も半ば以上修了し、2015年に論文化の予定である。 大英博物館が2012年冬に行った「春画展示」の主要メンバーであるロンドン大学SOAS教授のAndrew Gerstle教授と数度の情報交換を行い、国際日本文化研究センターの早川聞多教授にも教示を受け、今後も定期的に春本に関する情報交換を行う予定である。 戯作者による春本制作、ならびに戯作の春本化については、現在、戯作者と画師の隠号を調査中であるが、並行して、作品収集と調査を行っている。 ただし、春本研究のHPは今年度はアップできなかったので、来年度を目指すつもりである。
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今後の研究の推進方策 |
艶書往来「文のはやし」をその原型となる一九『文しなん』系と陽起山人『文のはやし』については制作経緯や制作年の推定、本文内容などを紹介し、他の「文のはやし」系艶書往来については、内容的に分類し、江戸後期から明治前期に掛けて、それらがどのように変化していったかを追う。それによって、もっとも巷間に流布した春本が、知識性と実用性を重視した教科書的な内容であったことを提示したい。 また曲亭馬琴の隠号「曲取主人」作の『艶本多歌羅久良』の研究を進め、この書が馬琴作の唯一の春本であることを証明し、さらに著名な馬琴作品が誰によってどのように春本化されていったかを探りたい。 また、中世に遡る春画絵巻の発生と物語化の過程を追い、江戸初期の春本までの道を考究する予定である。
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