本研究では、板坂が江戸期春本を扱うが、二つの課題を考えてきた。一つは最も多く売り出された戯作系の春本とはどのような作か、今ひとつは著名な戯作者と春本との関わり、殊に曲亭馬琴の執筆した春本ならびに馬琴作品の中で他の戯作者によって春本化された作品研究である。 前者では、平成26年、27年の研究に続けて、江戸後期から末期に掛けて数多くの作を出し続けた艶書往来で、その多くを「文のはやし」と呼ばれた型を「文のはやし」系と名付け、この研究を纏めた。平成27年にこの種の春本の嚆矢となった十返舎一九と陽起山人(溪斎英泉)の二作品紹介を行ったのに続いて、今年度は約50作の「文のはやし」系春本を分類し、総合的な考察を論文に纏めた。それによって、最も広範に売り出され享受された春本が、娯楽的な内容のものではなく実質的な男女の結び付きの指南書であることを示した。また派生して川端康成『眠れる美女』、ガブリエル・ガルシア・マルケス『わが哀しき娼婦たちの思い出』におけるこれら江戸期春本との関連、比較を発表した。 今ひとつの戯作者による春本、馬琴作品の春本化、馬琴による春本執筆研究については、その準備として、江戸ならびに上方で刊行された「読み和」といわれるテキスト主体の春本を中心に作品を収集している。いまだ論の形での発表を行っていないが、その準備段階としてHPに「戯作と春本研究」を作成し、その中で「文のはやし」系春本55作、女訓書のパロディなどを含むその関連春本24作、さらに戯作者と春本資料として157作をリスト化して提示している。なお、これらの春本はすべて板坂所蔵作品である。 また江戸期春本の前段階として見られる平安末~中世に掛けて作られた三部の艶色絵巻の研究は井黒氏が担当している。今年度は池田文庫、および香雪美術館で主に稚児物系の絵巻を調査し、現在、これらの成果を纏めているところである。
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