研究課題/領域番号 |
26370253
|
研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
石原 千秋 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (00159758)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 女の謎 / 生物学的他者 / 心理学的他者 / 女学生小説 / 漱石文学 |
研究実績の概要 |
明治・大正期において女性が「問題」となる水準は二通りある。 ①は、生物学、とりわけ進化論による水準で、この水準では「両性問題」となって、女性はいわば「生物学的他者」として定位された。「生物学的に体の仕組みがつがうのだから、能力もできる仕事も違って当然」という位置づけだった。たとえば、「女と云ふも、単に、人類に於ける性の別にして、(中略)両者、共に、同じ人類として取り扱わざるべからず」(澤田順次郎ほか『男女之研究』光風館書店、明治37年6月)という記述がある。同じ人類として取り扱わざるべからず」という一節をわざわざ書かなければならないこの記述の向こう側には、「男女ともに同じ人類である」とは思っていない読者が想定されている。女性の問題系が「婦人問題」という形を取った大正期においても、男女には「進化的差異」という「前提」があるのだから、それを考慮して女性の職業について考えなければならないという言説がふつうに行われていた(『現代叢書 婦人問題』民友社、大正5年3月)。 しかし、文学では別に②の水準が現れていた。それは、いわば「心理的他者」としての女性である。そもそも近代文学の始まりと言われてきた二葉亭四迷の『浮雲』に置いても、主人公の内海文三にとってお勢はまちがいなく「心理的他者」だった。この『浮雲』の設定を踏まえてとおぼしき尾崎紅葉の『金色夜叉』においても、主人公の間貫一にとって鴫沢宮は何を考えて自分と別れたのかわかが理解できない「心理的他者」だった。いずれの小説も「女の謎」が小説の展開上の構成原理となっている。 中産階級読者は女性を①の水準で捉えながらも、そこにおさまりきらない面を②の水準で読むことを文学に期待する地平として構成したのである。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
明治・大正期の中産階級読者の女性認識をどうとらえるかが最大のポイントだったが、それを「生物学的他者」と「心理的他者」の二つの水準で捉えることができ、近代の文学が主に②の水準を受け持ったことまで明らかにでき、今後の研究の基礎がためたができたため。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度の課題は、「女の謎」における「生物学的他者」の水準が文学にも現れていないかをまず検証し、それが性的関心をどのように構成していったのかを明らかにする。
|