本研究は、言文一致運動が伝統的な和歌の革新と近代短歌の成立にどのような影響を与えたかということについて明らかにしようとするものである。言文一致運動を背景に、散文世界では次第に「つ」「ぬ」「たり」「り」「き」「けり」といった時の助動詞は失われていった。だが、短歌はそれを残し、残しながら短歌表現として近代化を推進めたのである。それは、一人称の現在的な発話たる短歌の表現に地の文の末尾を席捲した助動詞の「た」が位置しにくかったためだった。そこで、近代の短歌は、動詞の終止形止めやテイル形を用いることによって、時の表現に膨らみをもたせた。石川啄木の『一握の砂』に見られる諸歌はその代表と位置づけられる。
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