研究課題/領域番号 |
26370263
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研究機関 | 国文学研究資料館 |
研究代表者 |
野網 摩利子 国文学研究資料館, 研究部, 助教 (60586668)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 夏目漱石 / 近代と前近代 / 古代伝承 / 英文学者としての漱石 |
研究実績の概要 |
英文学者であったときの夏目漱石が、古代・中世ヨーロッパの文学・文化・思想を精力的に摂取していたことにより、近代的思考に囚われない考え方を所持し、現代から見ても新しい文学理論を温めながら、実作者となったことを検証する過程に現在ある。 漱石が東洋の古代・中世にも関心を持ち続けたことの証明は、彼の文学全体像をより立体的に見るうえで欠かせない視角である(後掲論文「日中の古文辞学と漱石」)。この観点から、当該年度は『万葉集』や『古事記』に流れ込んだ古代民謡、伝承を漱石が自身の文学に取り入れた点の解明に力を注いだ(後掲発表「能と漱石」「古譚と『草枕』」)。 さらに、漱石が学者として大半を過ごした明治期において、通常推測されているのとはまるで異なるはるかに高い精度で、ヨーロッパ文学・文化・思想の通史的把握がなされていたことを、東京帝国大学教員、あるいは、学者でもあった漱石門下生による学術書の検討を通じて行った(後掲電子書籍『夏目漱石の時間の創出』、後掲電子書籍『詳註 三四郎』)。 このように、近代日本草創期における、東西の前近代に対する活発な学問状況に対する精査を済ませたことで、平成28年度は漱石の、文学・文化・思想に対する認識を最終的に位置づけることが可能となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初予定していた私の第二著にあたる単著は、出版社を二社に分けることになった。これは執筆を終えた内容が学術的に過ぎ、一般書が要求する分かりやすさとは相いれない側面があったからである。 学問的には高度なところまで踏み込むことができた。とりわけ、漱石がイギリス経験論を柱に、登場人物の知覚感覚、言語行動との相関性を組み立てていたことを論じきった。
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今後の研究の推進方策 |
本年度はイギリスのオックスフォード大学を拠点に研究調査を実施する。夏目漱石のイギリス受容の核はスコットランドにあるという私自身の仮説の証明に全力を挙げる。スコットランドの伝承文学の発見および再評価は18世紀に起きたが、オックスフォード大学附属図書館はその文献資料を豊富に有する。その調査に基づき、オリジナルな研究を打ち立て、二冊の単著と一冊の共著を予定している。 関連して、西洋の、民族闘争と深く絡んだ古代・中世文学を習得していた漱石が、東洋の古代、とりわけ漢籍から見出した亡国嗟嘆の詩をどのように捉えていたかについても、同じ文脈で解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
ブルガリアのソフィア大学における英語講演(平成28年11月4日実施予定)に向けた英文翻訳校正料が嵩んだため、当初予定していた東北大学附属図書館漱石文庫の調査に出向くことができなかった。よって、少額の残額を次年度の旅費として使用したい。
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次年度使用額の使用計画 |
前年度、旅費用経費の不足のために行うことのできなかった東北大学附属図書館調査費用として使用する。
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