研究課題/領域番号 |
26370264
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研究機関 | 国際日本文化研究センター |
研究代表者 |
石川 肇 国際日本文化研究センター, 研究部, 機関研究員 (80596734)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 舟橋聖一 / 新資料 / 大衆文化・文学 / 文学史 / 直木賞 / 戦前戦後の連動 / 移植民 |
研究実績の概要 |
舟橋聖一は戦前・戦中・戦後を通じて日本文学界を牽引し続けた作家であり、著作や資料を調査するだけで、当時の文化状況のみならず政治経済の動向までもが浮かび上がってくる稀有な存在である。しかしながら、舟橋の残した戦後の著作や資料の多くは未だ手つかずのままであり、その全貌をうかがうにはほど遠い。本研究は、(1) 未公開の「舟橋宛の葉書・書簡680通」を含む、舟橋の残した「戦後期資料」を、滋賀県彦根市立図書館内「舟橋聖一記念文庫」と舟橋聖一長女・舟橋美香子氏を代表とする遺族の全面協力によって総合整理し、公表の準備を進めること、(2)戦前と連続させる形で、舟橋聖一の戦後の大衆化路線の仕事とその歴史的意義を、死去12日前に作成された「舟橋聖一遺書」(1976・1)までを対象として解明することを、3か年で達成することを目的とする。初年となる26年度は、①舟橋聖一の戦後の写真をすべてデジタル化し、舟橋家および滋賀県彦根市立図書館内「舟橋聖一記念文庫」に収めた。また、舟橋の資料中に移民関係のものがあることがわかり、戦後とかかわる形で、日本移民学会「第24回年次大会」(6月29日)において「戦前期の文学にみる船旅」を発表した。さらに、文学の大衆化と大きくかかわる「直木賞」に関する研究も進め、「『イン・ザ・プール』の大衆性 ―神経病文学における史的位置―」を書き、共著『神経病と文学―自分という不自由』鼎書房、9月20日(P210‐220)として刊行した。そして、前年度までの2か年間、挑戦的萌芽研究「舟橋聖一全資料に基づく〈戦前期〉文学の総合的研究」として研究してきた成果と合わせるかたちで、博士論文「舟橋聖一論 ー『抵抗の文学』を問い直す」(総合研究大学院大学、3月)を執筆、受理された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
舟橋聖一が残した葉書・書簡の整理がその取扱いの難しさから、やや遅れているが、前年度までの2か年間、挑戦的萌芽研究「舟橋聖一全資料に基づく〈戦前期〉文学の総合的研究」として研究してきた成果と合わせるかたちで、博士論文「舟橋聖一論 ー『抵抗の文学』を問い直す」(総合研究大学院大学、3月)を執筆。その中において、従来研究では見えなかった「国策文学」の流れや、舟橋聖一およびその他作家らの「戦後の大衆化路線」への移行の動きを追うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
2年目となる27年度は、大きく二つの柱を立て、調査・研究を進める。一つ目の柱は、舟橋聖一の「戦後」の著作の中でも、芸者夏子を主人公とした〈夏子もの〉(1952~61)と呼ばれている作品群を中心とした調査・整理である。〈夏子もの〉は、昭和20年代後半から10年間の日本人の風俗を知るための一つのデータとして貴重な作品であり、また、舟橋自身の10年間の行動記録ともなる。二つ目の柱は、『毎日新聞』に連載された「花の生涯」(1952~53)の読解および大河ドラマ撮影開始を伝える「松竹京都スタヂオ・ニュース」や台本など、関連資料の調査・整理するなど、NHK大河ドラマに関するものである。これら二つの柱を立て、調査することにより、舟橋聖一およびその周辺の作家らの大衆化路線が、より明確になるはずである。
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