28年度は、各藩の蔵書目録等の調査を行い、中国小説の伝播状況について精査した。調査先は、東北大学附属図書館狩野文庫、鹿児島大学附属図書館玉里文庫、尚古集成館、岡山大学附属図書館池田家文庫、名古屋市蓬左文庫、米沢市立図書館、福岡県立図書館、福岡市博物館、対馬歴史民俗資料館、篠山市鳳鳴高校、島原市図書館松平文庫である。また、当初計画で調査ができていなかった、天理図書館及び、大阪府立中之島図書館についても行った。以上の調査先は主に旧大名蔵書であるが、特に江戸藩邸において収集された書物の目録類に、中国白話小説が記載されていることが判明した。今後、さらに調査を進め、どのような書物が、藩邸周辺で読まれていたか、その環境の問題についても考察を進める予定だが、今回の調査で、江戸中期以降、中国語の学習に関心のあった藩において、中国小説類が収集されていた実態が浮かびあがってきた。 また、中国白話小説からの江戸中期小説への影響については、既に2018年1月に、共同調査を行っている丸井貴史により、上田秋成が依拠した中国小説の本文・訓読・現代語訳が作成され「上田秋成研究事典」において発表してもらい、全体を監修した。この成果を踏まえて、江戸中期小説への影響を検討した結果、「雨月物語」の中国小説からのリライトについて、大きく二つの傾向があることが判明した。すなわち、中国小説の構成や人物設定までも大きく変更して、原拠と対話するタイプと、可能な限り、原拠をなぞりながら、わずかな偏差により、原拠とは異なる主題の作品を構成するタイプである。「雨月物語」の中では、「浅茅の宿」が前者、「菊花の約」「夢応の鯉魚」が後者に分類できる。この成果については、平成29年6月刊行予定の「読本研究新集」9号の成果論文「二つのリライト」を投稿、審査の結果受理され、現在校正中である。
|