本研究は、イギリス・アイルランド演劇における兄弟表象に注目し、〈長い18世紀〉(1688-1837頃)に、社会・政治的な変化を受けてその演劇的意味が大きく変わったことを、テクストの分析を通じて実証するものである。イギリスの経済はこの時期に、長子相続制度を前提とした土地経済から、帝国主義と結びついた重商主義的商品経済へ移行した。これを受け、初期近代演劇に見られる兄弟間の相続争いというトポスでは不遇なる社会的周縁者であった〈弟〉が、軍人や商人といった帝国の中核を担う存在として書き換えられていくことを、本研究は明らかにした。
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