本年度は、18世紀のイギリスにおける「伝統」と「オリジナリティ」の概念・感覚についての研究を行い、前年度に行ったロマン派、17世紀のそれと比較した。18世紀は、1710年の著作権法の施行に伴い、自らの作品に対する所有権意識の芽生えがみられることが予想されたが、スウィフト、ポープ、ジョンソン、エドワード・ヤングらの作品、文学論、そして、当時の定期刊行物に掲載された批評等を調査した結果、「伝統」と結び付けられる共有財産と、個人の才能や「オリジナリティ」と結びつく私有財産に関する意識に着目すると、後者重視の傾向が見られることが確認できた。また、スウィフト、ポープの作品については、そのパロディなど二次利用の実態についても調査を進めており、次年度は、19世紀におけるパロディ作品との比較を行いたいと考えている。 ロマン派の時代における知的所有権の意識について、ケーススタディを通して明らかにするために、コールリッジの『省察の助け(Aids to Reflection)』のイギリスとアメリカで様々な編者により出版された複数の版についても調査を行った。ロバート・レイトンの著作にコールリッジがコメントを付ける形をとった本作品が、さらに複数の編者の編集を経て出版され、受容される過程について考察を進めている。 上記の研究のために必要な、一次資料、研究書、著作権法関係の書籍を購入し、イギリスのブリティッシュ・ライブラリーにおいて文献調査を行った。
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