研究実績の概要 |
本年度は、研究計画に従って、18世紀の環大西洋地域における英語文学の全体像を把握しつつ、未収集のものを中心に資料調査をおこなった。その過程で本研究に重要な示唆を与えてくれた文献として、Felicity A. Nussbaum, “Slavery, Blackness, and Islam: The Arabian Nights in the Eighteenth Century” (Brycchan Carey and Peter J. Kitson, eds., Slavery and the Cultures of Abolition: Essays Marking the Bicentennial of the British Abolition Act of 1807, Cambridge: D. S. Brewer, 2007, pp. 150-72 所収) が挙げられる。この論文は、近代性のしるしとしてしばしば結びつけられながらも、分析の対象として同時に論じられることの少ない奴隷貿易廃止運動とオリエンタリズムの問題を、ヨーロッパの帝国主義的な力のあり方として対応させて論じている。コロニアリズムと直接に結びつけて論じることのできる西インド諸島を舞台とする文学作品とオリエントを舞台とする東方物語を比較することによって、これまでの奴隷物語に関する研究に新たな視点が導入できる。実際、本年度に英国図書館でおこなった調査において、この両者が並列されたチャップブックのコレクションを発見することができた。この観点をさらに展開するための出発点として「18世紀の『アラビアン・ナイト』―もうひとつのイギリス小説勃興論」と題する発表をおこなった。
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