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2014 年度 実施状況報告書

シェイクスピア演劇におけるキルケ神話の表象に関する考察

研究課題

研究課題/領域番号 26370276
研究機関京都大学

研究代表者

廣田 篤彦  京都大学, 文学研究科, 准教授 (40292718)

研究期間 (年度) 2014-04-01 – 2017-03-31
キーワード英文学 / シェイクスピア / 神話 / キルケ / ヴェニス
研究実績の概要

本年度は、研究実施計画に基づき、主としてヴェニスを舞台とするシェイクスピアの劇作品である『オセロー』と『ヴェニスの商人』について研究を進めた。
①『オセロー』については、まず、この劇のキルケ表象におけるヴェニスという空間の重要性を初期近代の文脈において検証した。さらに、キルケ神話を下敷きに、初期近代の地中海におけるアイデンティティの流動性とこの劇との関係についての研究を進めた。特に注目したのが、劇の中で語られる様々な地名であり、その中でもエジプトの魔術師への言及への考察は、次年度に主たる対象とする『アントニーとクレオパトラ』との比較を可能にするものとなっている。
②『ヴェニスの商人』については、古典古代から既にキルケ神話と関連する形で存在した黄金の羊毛神話のこの劇における表象について詳細に検討した。特に、後者が中世から初期近代に至る間に獲得した、宗教的、経済的、文化的関連を分析し、両神話の比較・対照に基づいた劇の解釈、さらにはエリザベス朝イングランドにおけるキルケ神話の意味の探求を試みた。
両劇に関する研究については、後述のとおり、国際学会等における研究発表ならびに講演において、広くその成果を公表し、そこで得た知見を基に、論文等の形での刊行準備を進めている。その他、これら両劇と比較する形で歴史劇におけるキルケ神話についての考察を一部開始すると共に、本研究課題の実施における電子化されたデータベースの有用性に着目し、意見交換を開始した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本年度の主たる研究対象である『オセロー』と『ヴェニスの商人』について、キルケ神話の扱われ方についてそれぞれ一定の分析を行い、その成果をまとめて、国際的に評価されうる形で発表することが出来た。さらに、口頭発表時における質疑応答等を通じて、新たな知見を得、論文等にまとめる作業を進めた。中には刊行の見込みがついたものもある。また、これらの発表の機会を通じて、神話とシェイクスピア、神話と初期近代文学に関わる国際プロジェクトに参加するよう招待を受けた。このプロジェクトに関わる中で、本年度の研究を一層発展させる可能性が開けたことも成果の一つとして挙げられる。
前記のとおり『オセロー』に関する考察を通じて、エジプトの魔術をキーワードに、来年度の中心的な研究対象の一つである『アントニーとクレオパトラ』との関連が明らかになりつつある一方、『ヴェニスの商人』について考察を進める中で、黄金の羊毛神話の中核をなすアルゴー号の航海に『トロイラスとクレシダ』の登場人物であるネストールが参加していることを知り、この登場人物を中心に、神話との関係という側面から両劇を比較考察する可能性に着眼するに至った。同様に、前述した歴史劇との比較や、データベース活用を含めて、本年度の研究は、このように本研究課題を今後進めていくための複数の筋道を提示した点でも評価できるものであると考える。以上より、平成26年度の研究はおおむね順調に進展していると評価する。

今後の研究の推進方策

平成27年度は、ヴェニスを中心とした平成26年度から発展し、地中海全体をカヴァーする形で、主として以下の2点から研究を推進する。
①『アントニーとクレオパトラ』におけるキルケ神話。特に(男性中心の)ローマの視点から見た、クレオパトラに代表されるエジプト、さらには、これと共に「他者」として扱われる東方のこの劇における扱われ方をキルケ神話を手がかりに考察する。
②『トロイラスとクレシダ』における神話的伝統。この劇は、『イリアス』に描かれたトロイ戦争を劇化したものであるが、そこには、古典古代から中世を経て、初期近代に至る様々な文化的、文学的伝統が積み重なっている。この重層性の中でキルケ神話がどのように扱われているかについて、特にトロイ、ギリシャ両陣営の境界を越える女性登場人物に着目し、前述のネストールを手がかりに、黄金の羊毛神話の関わり方とも併せて考察する。
両劇とも、西と東という枠組みで対立する二つの陣営の交戦を描いた劇であるが、その中で、キルケ神話に見られる人の獣化のテーマを、初期近代の地中海におけるヨーロッパ諸国ととオスマン帝国、キリスト教とイスラム教、という対立とその対立軸の解体に伴うアイデンティティの流動性という文脈の中で再考察することによって、この神話の意義を検討する。さらには、平成28年度に中心的な研究テーマとする計画である、「英国歴史劇におけるキルケ神話の重要性」を視野に入れ、この地中海の問題のイングランドへの関わり方についての考察を開始する。

  • 研究成果

    (5件)

すべて 2014

すべて 学会発表 (5件) (うち招待講演 1件)

  • [学会発表] The Myth of Circe and Liminal Spaces: : The Marches in Henry IV, Part 12014

    • 著者名/発表者名
      Atsuhiko Hirota
    • 学会等名
      Seminar: Shakespeare and Space, International Shakespeare Confrence
    • 発表場所
      Stratford upon Avon
    • 年月日
      2014-08-03 – 2014-08-08
  • [学会発表] Venice, Barbary and Cyprus: Space and Myths in Othello2014

    • 著者名/発表者名
      Atsuhiko Hirota
    • 学会等名
      Space of Performance and Performance of Space in Early Modern English Literature
    • 発表場所
      Seoul
    • 年月日
      2014-06-27 – 2014-06-28
  • [学会発表] Venetian Enchantresses and Egyptian Sorcery: Transformations of the Circean Myth in Othello2014

    • 著者名/発表者名
      Atsuhiko Hirota
    • 学会等名
      Shakespeare 450
    • 発表場所
      Paris
    • 年月日
      2014-04-21 – 2014-04-26
  • [学会発表] Venetian Jasons, Parti-Coloured Lambs and a Tainted Wetrher: Ovine Tropes and the Golden Fleece Myth in The Merchant of Venice2014

    • 著者名/発表者名
      Atsuhiko Hirota
    • 学会等名
      IRCL conferance
    • 発表場所
      Montpellier
    • 年月日
      2014-04-17
    • 招待講演
  • [学会発表] Introduction of Bibliography and Palaeography Using the Meisei Shakespeare Database2014

    • 著者名/発表者名
      Atsuhiko Hirota
    • 学会等名
      Workshop: Reading the First Folio Then and Now, Shakespeare Association of America
    • 発表場所
      Vancouver
    • 年月日
      2014-04-01 – 2014-04-05

URL: 

公開日: 2016-05-27  

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