研究課題/領域番号 |
26370283
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研究機関 | 岩手県立大学 |
研究代表者 |
伊東 栄志郎 岩手県立大学, 高等教育推進センター, 准教授 (70249241)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ジェイムズ・ジョイス / 東アジア文化 / 日本文化 / (禅)仏教 / モダニズム / オリエンタリズム / 英米文学 / 東西交流史 |
研究実績の概要 |
「ジェイムズ・ジョイスと東アジア中心の脱欧入亜論」の三年目の本年は、特に日本文学・文化がどのようにジョイスや英文学に影響を与えたかを中心に研究した。研究成果は全て英語で発表した。 6月ロンドン大学で開催された第25回国際ジェイムズ・ジョイス・シンポジウムにおいて、「ジョイス、黒澤、『スター・ウォーズ』 'Monomith' (FW 581.24」を発表した。『スター・ウォーズ』は、ジョージ・ルーカス監督が構想段階でジョセフ・キャンベルの単一神話論(Monomyth)「英雄の旅」を援用したことはよく知られている。キャンベルは優れたジョイス研究者でもあり、Monomythという用語は、ジョイスの『フィネガンズ・ウェイク』から借用した。ルーカスは『スター・ウォーズ』特にエピソード4製作時、黒澤明の『隠し砦の三悪人』等をかなり参考にして、壮大な宇宙チャンバラ劇を目指した。本発表では、『隠し砦の三悪人』と『スター・ウォーズ』4に関して『若き芸術家の肖像』と『ユリシーズ』を「英雄の旅」に基づいて比較検証した。 岩手県立大学『総合政策』第18巻第2号に「能舞台でのジョイスとイェイツの和解」を発表した。イェイツはジョイスが若い頃から面倒を見てきたが、ジョイスが有名になると二人の関係は次第に疎遠になった。イェイツは能に感化されて『4つの舞踏家のための戯曲』を創作、特に「鷹の井戸」は大評判になった。当初ジョイスはあまり能に興味がなかったようだが、『フィネガンズ・ウェイク』第四巻の仮想能舞台でイェイツと彼自身の関係を仄めかす言及があると指摘した。 『片平』第52号に発表した「ジョイスは世界に、村上も世界に」では、デヴィド・ダムロッシュの『世界文学とは何か』を手掛かりに世界文学という観点から両作家を検証した。『ユリシーズ』と『1Q84』を比較分析することで、両作品が世界文学に足るものだと確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は活字になった論文が2本あり、一つは大学紀要論文(査読付)で、もう一つは金星堂から出版された。前者は日本の能劇のイェイツを介したジョイスへの影響を指摘している。地味ではあるが、いかに日本文化が英文学、特にモダニズム文学へ影響を与えたかを論証したものであり、その意義は大きいと自負している。後者のジョイスと村上春樹の比較論も、世界文学という切り口から論じたもので、行きた時代も国もまったく違う二人が、ともに19世紀ヨーロッパ文学、ことに仏文学とロシア文学に人格形成期に大きな影響を受け、双方とも故郷を離れて母国にこだわって制作活動したことを考察した。 6月にロンドン大学開催の国際ジェイムズ・ジョイス・シンポジウムで発表した「ジョイス、黒澤、『スター・ウォーズ』」は発表会場がほぼ満席となり、質疑応答も盛んになり、確かな手応えを掴んだ。アイルランド人も難解だと言って敬遠する傾向があるジョイス作品を敢て大衆映画と比較することは意義がある、と英国では同意を得たということであろう。 まだ多少の試行錯誤は必要だが、本研究は概ね順調に推移していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画どおり、国内外の関連研究会等に積極的に参加しながら、国際ジェイムズ・ジョイス協会(本部:米タルサ大学)主催の国際学会と国際アイルランド文学学会(IASIL)を中心に学会発表し、その成果をじっくり時間をかけて活字にする、ということを軸に本研究を進めていく。 平成29年度においては、4月から9月まで半年間サバティカルでジョイスの母校ユニヴァーシティ・カレッジ・ダブリンを中心に研究活動を進める。出来るだけ多くの学会、研究会、読書会、サマー・スクールなどに参加し、様々な研究者たちと交流を深め、切磋琢磨していきたい。また資料収集、デジタル化も進行していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
・本年度は勤務校岩手県立大学から幸いにして「成果等発表支援費」がいただけたので、国際学会参加費用等が当初の見込みより科研費使用分がかなり減った。 ・平成29年度にサバティカル研修することが決定したため、学会発表準備や現地に持ち込む資料整理などに追われたため、国内研修出張が予定より大幅に減ったことで支出も減った。 ・手持ちの資料をデジタル化することに時間をかけたが、個人所有資料の物量が多かったため、新たな資料を購入することは控えていた。
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次年度使用額の使用計画 |
・平成29年度はサバティカル研修をアイルランドを中心に行うため、アイルランドを中心に欧州、さらには北米、シンガポール開催の学会、研修会等に多く参加する予定である。 ・資料収集とデジタル化、そして国内外の研修機会を増やすつもりである。
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備考 |
*2016年に開催された学会公式サイトのため、一定期間が過ぎればサイトは閉鎖されると思われる。
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