「ジェイムズ・ジョイスと東アジア中心の脱欧入亜論」最終年度の本年は、これまでの5年間の研究成果をまとめる作業を行なった。6月にベルギーのアントワープ大学で開催された国際ジェイムズ・ジョイス・シンポジウムに参加し、“Education: The Jesuit Artist and the Speckled ‘Bard’”と題して研究発表を行なった。ジョイスの半自叙伝的小説『若き日の芸術家の肖像』とW. B. イェイツの未完の半自叙伝的小説『まだらの鳥』について、両作家の受けてきた教育的環境を考慮しながら比較したものである。ジョイスは幼少期よりイエズス会の教育を一貫して受けた。日本に初めてキリスト教布教を行なったフランシスコ・ザビエルを讃える説教は『肖像』で大きく取り上げられている。イエズス会の教育がいかに彼の文学活動に影響を与え続けたのかを、同時代の同じくアイルランド出身で日本の能などに大きな影響を受けたイェイツの教育状況とを比較して、1916年の復活祭蜂起における両者の反応などを考察したものである。加筆修正した論考は『ジョイスへの扉 「若き日の芸術家の肖像」を開く十二の鍵』(高橋渡・河原真也・田多良俊樹編著 英宝社 2019)に掲載された。 また、シンガポールの南洋理工大学で開催された国際アイルランド文学学会(IASIL)年次研究大会2017で発表した論考は、加筆修正後“The Japanese Effect or Haiku on Irish Literature”という題目で 『片平』54号(金星堂 2019)に掲載された。これは、ジョイスを含む現代アイルランド文学がいかに日本の俳句に影響を受けてきたかを論証しようと試みたものである。アイリーン・デ・アンジェリスの先行研究を参照しながら、日本文学が、世界文学、特にアイルランド文学に与えた影響について考察した成果である。
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