研究課題/領域番号 |
26370289
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研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
佐藤 亨 青山学院大学, 経営学部, 教授 (40245337)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 紛争 / 植民地 / ネーション / 帰属意識 / アイルランド / 英国 / インターフェイス / 和平 |
研究実績の概要 |
本年度は論考を2本書き、研究発表を一つ行った。また、2016年3月には北アイルランドで現地調査を行った。論考は、一つはシェイマス・ヒーニーの、ソポクレス『プロクテテス』翻訳、『トロイの癒し』について、もう一つは在日コリアンの詩についてのものである。 前者では、宗派対立が続く北アイルランド社会を背にして、詩人はいかに原作(ギリシア悲劇の世界)に忠実か、同時に、目の前の北アイルランド社会を見据えて、単なる翻訳(translation)ではない一変奏(a version)を作り上げたかを探った。その際、紛争の歴史を概観し、原作の世界を代表的な研究者の評価を引用しながら検証し、『トロイの癒し』の位置について論じた。後者では、在日コリアン詩人の、言語意識や植民地意識を、とくに金時鐘の詩を中心に論じた。在日コリアンの詩人は帰属意識、言語をふくめた植民地体験など、いろいろな点で、北アイルランド詩人と通じ合う。本論を書くことで北アイルランド詩人が展開する詩的想像力は、その地域にかぎられたものではなく、在日コリアンとも共通する、普遍的なものだと認識し、今後の研究の新たな展望が開けた。 研究発表は1916年のイースター蜂起についてのもので、歴史専攻の研究者と合同で行った。蜂起はアイルランドの南部、すなわちアイルランド共和国とのつながりでとらえられることが多いが、発表では北アイルランドの視点を導入した。 北アイルランドの現地調査は約2年ぶりであった。ベルファストの紛争地区、とくに東部、北部、西部を中心的に調査し、ミューラルの変遷ぶりを記録した。また現地ではミューラル研究の第一人者、アルスター大学名誉教授、ビル・ロールストン氏と会見し、ミューラルについての新たな知見に触れ、今後の研究にとっての示唆を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
北アイルランドの詩的想像力研究については、ヒーニー論を書き、また、北アイルランド詩研究において有効な視点である在日コリアン詩についても研究を始めることができたのが主なる理由である。なお、本年度当初の研究目的であったシェイマス・ディーン研究は、進めたものの、論考を書き終えるという段階までいかず、その点、反省すべきである。次年度には必ず書きたい。 なお、まだ出版はされていないが、論文では、上記2点のほか、パトリック・カヴァナ論を書いた。カヴァナは北アイルランド詩人ではないが、ジョン・モンタギュー、シェイマス・ヒーニー、ポール・マルドゥーンなど現代北アイルランドを代表する詩人たちに大きな影響を与えた詩人である。本論は、側面的ではあるが、研究の進展に寄与している。 また、北アイルランドの現地調査は、短期間であるものの、有益であった。今回も多くの発見があり、ミューラルの変化を通し、北アイルランド社会の変遷がわかった。また、ミューラル研究家やミューラル・アーティストとも話す機会を持つことができ、いっそう理解が深まった。現地調査の重要性を再確認した出張であった。
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今後の研究の推進方策 |
紛争を含め、北アイルランドの歴史、文化、社会全般を理解するためのキーワードや必要項目を書き出し、整理し、一つ一つ、解説をほどこす作業に着手したい。その際、現地調査で撮りためた数万枚の写真があるので、写真を添え、視覚的にも理解しやする解説を付していきたい。これについては単著にまとめる計画がある。 論考では、シェイマス・ディーン論を書くことが研究最終年度である本年の今年の最大の目標である。また、わが国で若手の研究者によるミューラル研究が昨年、2冊出たので、その書評も書きたい。そして、1916年のイースター蜂起100周年を記念してシンポジウム(日本アイルランド協会)を企画しており、北アイルランドの視点も入れて、発表を行いたい。また、イギリス近・現代史についての本の一章を担当しており、アイルランドの独立と北アイルランドの成立について執筆する。
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