本年度は論文3本、口頭発表3回が主たる研究実績であった。 まず後者であるが、2016年はアイルランドのイースター蜂起100周年にあたり、そのテーマについて2度発表を行った。「イースター蜂起100年後の政治的風景――ベルファストとダブリン」(日本アイルランド協会、歴史・文学合同研究会、10月)と「シンポジウム イースター蜂起――100年を経た今」(日本アイルランド協会、年次大会、12月)である。ほかには、「シンポジウム エリオットとヨーロッパ文化」において「それぞれのヨーロッパ」という題で発表した(日本T.S.エリオット協会、年次大会、11月)。 次に前者であるが、以下の通りである。「パトリック・カヴァナ イニスキーン・ロードからラグラン・ロードへ――田舎者詩人の上京」(『文学都市ダブリン――ゆかりの文学者たち』所収、春風社)、「サラエヴォ、ベルファスト、ヨーロッパ」(『青山経営論集』51巻)、「アイルランドの独立と北アイルランドの成立」(『教養のイギリス近現代史』所収予定、ミネルヴァ書房)。以上である。 このうち、「サラエヴォ、ベルファスト、ヨーロッパ」という論考に現れているように、研究課題対象である北アイルランド紛争を、バルカン半島の内戦と比較する視点が新たに確立できつつある。形がはっきりしたわけではないが、これは3年間の研究期間の大きな収穫であり、2017年3月にはセルビアとスロヴェニアで現地調査をすることにより、研究動機がさらに高まった。 北アイルランドでは『ボスニア』と題されたバルカン半島出身の現代詩人のアンソロジーが出版され、当地の現代詩人の作品同様、よく読まれている。バルカン半島の歴史、文化、社会の研究は、北アイルランド紛争、および、当地出身の現代詩人の詩的想像力の研究に数多くの示唆と手掛かりを与える。
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