研究課題/領域番号 |
26370290
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研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
中野 春夫 学習院大学, 文学部, 教授 (30198163)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | シェイクスピア / イギリス演劇 / ルネサンス / 浮浪者 / イングランド社会 |
研究実績の概要 |
16世紀のイングランド社会には急激な人口膨張と囲い込みなどによる経済システムの変化によって新たな貧困層が生まれていた。浮浪者とは健常でありながら働かない「健常な物乞い(sturdy beggar)」であるが、16世紀イングランド社会は働く意思を持っていても雇用機会に恵まれない失業者を大量に生み出していた。 本研究の対象は中世社会から近代初期社会への過渡期に生まれていた貧困者、すなわち救貧法と浮浪取締法の対象となっていた公的な社会的弱者である。本研究が16世紀イングランドの浮浪者に注目する理由は彼らが浮浪取締法によって犯罪予備軍と名指しされる集団、すなわち今日の社会保障制度の起源となる救貧制度を整備した16世紀イングランド社会が鬼子のように生みだした被差別集団であった点にある。 初年度は本研究の出発点となる現実世界における浮浪者の実態分析を行った。具体的には1495年以降の浮浪取締法(1495年~1593年まで11回改正)を精査し、「浮浪者(vagabond、rogue、sturdy beggar)」の定義と適用範囲がどのような社会背景からどのように変わっていたかを調査した。初年度において重点的に調査した対象は浮浪取締法および浮浪取締法制定後に出版された浮浪者パンフレットおよび文学作品である(設備備品・16世紀イングランド浮浪者表象・社会史/文化史関連一次資料、旅費・海外調査旅費)。この調査目的は16世紀イングランド社会が諸制度の変化と貧困問題について抱いていた社会不安の具体的なデータ、および現実世界における浮浪者像の個別例を得ることにあり、これらが本年度及び最終年度の総括にあたって基礎的なデータとなる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
初年度は浮浪取締法の改正とともに1550年代から急増する浮浪者パンフレットのテクストを収集し、ジャーナリズムの領域における浮浪者表象を網羅的な調査・分析を行った。初年度はとくにJohn Awdeleyの『浮浪者友愛団(The Fraternity of Vagabonds)』(1561)とThomas Harmanの『浮浪者への警告(A Caveat for Common Cursitors)』(1566)に注目し、これらのパンフレットが浮浪者を24種類(Harman)もしくは25種類(Awdeley)に区分したうえで、種類ごとにその特性を具体的に解説しており、現時点で、裏社会神話および浮浪者のステレオタイプ的イメージの多くがこの二つの資料から派生していることを突き止めた。特に上記のHarmanのパンフレットにおいて収録されている浮浪者の語彙集(111語)の発見は貴重な成果である。
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今後の研究の推進方策 |
現時点で大きな問題は生じておらず、順調に課題を遂行できているので、研究計画の記述どおりに進めていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費として予定していた16世紀イングランド社会関連の一次資料コレクションが適正価格として当初予想していた額よりもかなり上回っていたので、初年度は購入を見送ったため。また予定していた研究会が講演予定者の都合で一回流れたのも予定額を消化できなかった理由でもある。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は多少高価であっても購入予定のコレクションを入手し、物品費を予定額通り消化していきたい。また研究成果及び関連する研究対象の情報共有の場として予定通り研究会を行っていき、初年度に流れた会も本年度に繰り下げて開催する。。
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