本研究の課題は16世紀イングランド文学における浮浪者(vagabond)表象の分析である。本研究がこの社会集団に注目する理由は、16世紀の浮浪者が社会変化によって生みだされた近代最初の公的な貧困者たちであり、同時代のイングランド文学がこの集団に対して差別的イメージの原点となる負のステレオタイプを貼りつけたことにある。本研究は引籠りや離職者から、特定の外国人(ジプシーやアイルランド人など)、特定の職業(鋳掛屋や行商人など)まで一括して浮浪者と呼ばれた社会集団の表象において、16世紀イングランド文学が議会制定法、歴史書、パンフレットとの相互影響関係の中で特異なイメージを発達させた過程を歴史的に分析した。 最終の三年度は初年度と二年度に得られた現実世界のデータと比較対象を行い、上記のカテゴリー別に浮浪者のステレオタイプの生成過程を歴史的に解明した。その具体的成果は「オフィーリアの小唄―エリザベス朝イングランド社会における女性版怨み歌」(『学習院大学文学部研究年報』、査読無、第63号、pp.128-53、2017年3月)において公表されている。
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