1. Skittles に関する一次資料を、所属図書館を通しての複写、貸借依頼という形で収集した。貴重書や国内での入手が不可能な資料に関しては、夏季、冬季、春季の休暇を利用し、国内の大学図書館、ロンドンのブリティッシュ・ライブラリで、閲覧と資料収集をおこなった。 2. Skittles の片鱗がうかがえるヒロインが登場する正典性の比較的高い19世紀イギリス小説として、M.E.Braddonの "Aurora Floyd"と "Lady's Mile"に着目し、両者のテクストを精読したうえで、関連の研究論文を収集し、先行研究の動向を調査した。一般の娼婦と中流階級の婦人という二項対立に揺さぶりをかける存在としての高級娼婦の位置づけを明確にしたうえで、上記二作品を解読する作業は現在進行中であり、今年度中に学会発表と論文の発表をおこなう予定である。 3.ディケンズの初期作品『オリヴァー・トウィスト』は、後期作品の深刻さとは一線を画しており、主人公オリヴァーの造形に難があると従来考えられてきた。だが、主人公は私生児であり、その主人公の社会的非在を存在へと変えるきわめて重要な鍵を握る人物が他ならぬ娼婦であるという大胆な設定のもとに成立している当作品は、本研究のテーマと密接に絡み合う要素を多分に備えたテクストとして見過ごすことのできない重要性を秘めている。娼婦であるナンシーは殺害されテクストから排除されるが、「堕ちた女」への同情を表わさずにはおれないディケンズは、ナンシーに回心の契機を与えることで、善と悪との二分が一見明らかに見えるこのテクストに複雑な側面を織り込んでいる。加えて、庶子であるオリヴァーを主人公にハッピー・エンディングを迎えさせるという離れ業がいかにして可能となっているのかを、夢のシーンを切り口として読み解くことで、当該テクストの批評に新たな読みの可能性を加えることに成功した。
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