研究課題/領域番号 |
26370294
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研究機関 | 津田塾大学 |
研究代表者 |
早川 敦子 津田塾大学, 学芸学部, 教授 (60225604)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 翻訳論 / 越境性 / グローバリゼーション / エヴァ・ホフマン / 世界文学 / 日本文学 / 歴史再読 |
研究実績の概要 |
翻訳論の展開と歴史の再読というテーマに鑑み、前年度に来日したユダヤ系ポーランド人作家Eva Hoffmanの来日記念講演の講演録ならびに英国に帰国後にまとめたエッセーの分析および翻訳を行った。言語の「越境」としての翻訳論的視点から彼女の作品を読み解くことを通して、21世紀的な課題であるグローバリゼーションへの応答としての「歴史再読」の可能性をさぐることがその目的であったが、とくに西洋的な視点から日本の近代的特徴を俯瞰するエッセーのなかに、歴史を捉える「斜」の視点の有効性が見出せる。翻訳については2015年度中に出版の予定である。 他方、2014年に立ち上がった「世界文学・語圏横断ネットワーク」の第二回研究集会にて「翻訳」セッションの統括とモデュレーターを担当、日本文学の外国語翻訳についての発表および南アフリカの作家の英語による小説についての発表に対してのコメントを翻訳論的見解から行った。「歴史」が翻訳論的にみるとST(原テクスト)とTT(目標原語のテクスト)の両方からの視点が交差するところに翻訳の重要な要素として関与すること、そこから「歴史」が様々の複層的要素を内在させるthick textとして書き換えられていくことを照射した。 このような研究活動を通して、世界文学全集と日本文学全集の双方向の文学テクストがもたらしうる成果についての研究、たとえば宮沢賢治から村上春樹、上橋菜穂子まで、日本文学が世界文学として評価されてくるにいたる過程を検証していくことの有用性など、次の研究段階に進む知見が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
歴史の再読という大きなテーマをどのような切り口から展開していくかということについて、グローバリぜーションへの応答としての世界文学を分析していくという方向性が見出せたことは、今後の研究を展開していく成果のひとつである。 健康上の理由により、例年発表してきた紀要への論文発表ができなかったこと、予定していたメキシコシティでの国際会議への出席を断念したことにより、海外の研究者との意見交換ができなかったことは当初の研究計画からの立ち遅れとして自己評価は下がるが、他方で新たな翻訳への取り組み(Emily R.Grosholz, "Childhoood")などを始動できたことが、研究の推進につながっている。
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今後の研究の推進方策 |
翻訳論の展開については、「世界文学」という領域からのアプローチを「日本文学の外国語翻訳」の視座との関連で考察していく。とくに2015年9月に予定されている英国ロンドン大学でのJapanese Studiesの国際会議において、パネルへの参加を予定しており、そこで得られた知見をもとに論文にまとめる予定である。 Eva Hoffmanのエッセーならびにアメリカの哲学者Emily R.Grosholzの詩集の翻訳は2015年度中に完成の予定である。翻訳の行為そのものが、理論の実践でもあり、また翻訳の過程で原著者との意見交換を行うことで得られる知見を研究の展開に組み込むことが目的のひとつである。
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次年度使用額が生じた理由 |
健康上の理由(視神経脊髄炎)により、予定していた海外での学会への参加を断念したこと、ならびに紀要への投稿も、夏季休暇中の療養のため取り下げたことにより、研究計画に変更が生じたため。又、人件費については、海外学会出張時に専門家との意見交換を行い、その際に生じる予定であった謝金が、海外出張取りやめにともなって発生しなかったために未使用として次年度への持ち越しとなっている。
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次年度使用額の使用計画 |
2014年度に予定していた学会の代替として、2015年度に海外の国際会議に出席する(2015年9月、ロンドン大学Japanese Studies)予定で、その際に専門家との意見交換を行う。また、その成果は年度内に論文にまとめて発表の予定である。
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