研究課題/領域番号 |
26370296
|
研究機関 | 東京女子大学 |
研究代表者 |
原田 範行 東京女子大学, 現代教養学部, 教授 (90265778)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 近代英文学 / 日本表象 / ジョージ・サルマナザール / ダニエル・デフォー / ジョナサン・スウィフト / 小説の誕生 / 旅行記文学 / 定期刊行物 |
研究実績の概要 |
平成27年度は本研究の2年目にあたる。研究初年度においては、17世紀後半から18世紀前半に刊行された英語文献および地図における日本表象を網羅的に調査することに主眼を置いたが、本年度は、その中でも特に重点的に検討することを計画している作家であるジョージ・サルマナザール、ダニエル・デフォー、およびジョナサン・スウィフトのうち、ジョージ・サルマナザールとジョナサン・スウィフトに関して、その日本表象の諸相をそれぞれの執筆経緯を参照しつつ明らかにすることを中心に研究を遂行した。これは、本研究が、当時の英語文献における日本表象に関する網羅的なインデックス作成を一つの目的としつつも、それを単にインデックスに留めるのではなく、文化史的・文学史的文脈を検証することで、日本表象の意味を包括的・体系的に捉え、そのイギリスおよびヨーロッパにおける機能や役割を明確にするという本研究の主目的の根幹にかかわるものである。なかでも、伝記的事実や人物像がはっきりしないサルマナザールについての本年度の調査では、サルマナザール自身の全著作の執筆・出版経緯について、なお詳細が不明な部分を残しつつも、全体像が明らかになり、またこれと共に、関連するイギリス王立協会の記録、著作出版当時の定期刊行物の反応、書評の詳細などの資料調査によって、彼の日本表象の影響の大きさを確認することができた。この日本表象は、実は18世紀末にまで至るイギリスの日本観あるいは対日政策の基本指針などを形作る原型となっていることについても、なお詳細を精査する必要があるものの、ほぼ確実な見通しを持つことができた。スウィフトについても、『ガリヴァー旅行記』のような代表的作品のみならず、ほぼ全著作にわたって、地理的・空間的広がりやその扱い、世界観、実際の場所とフィクションの語りとの関係などを精査し、整理・体系化する作業をほぼ終えることができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度は本研究の2年目にあたるが、初年度より本年度にかけての集中的な資料調査や精読により、主な研究対象として当初想定していたジョージ・サルマナザール、ダニエル・デフォー、ジョナサン・スウィフトのみならず、17世紀末から18世紀初頭にかけてのかなり広い範囲での日本表象を収集・精査することができた。その文化的脈絡についても、実は中心となる3人の作家と密接な関わりを持つ場合が少なからずあり、これを整理・体系化することで、本研究は想定以上の成果を挙げることができるのではないかと期待している。中心となる3人の作家の執筆経緯等に関する調査・検討に関しては、デフォーに関する考察がまだ途上にあるものの、サルマナザールとスウィフトについては、本年度までに、全著作についての考察をほぼ完了するなど、一定の成果を挙げることができた。さらに、関連する当時の地図などについても、なおそれぞれの製作事情の詳細を精査する必要が今後あるものの、大英図書館のコレクションなどを有効活用することで、やはり想定以上の現物を調査することができた。こうした成果については、その一部を既に研究論文や著書の形で公刊することも開始している。 ただ、主に資料調査とその検討に集中していたために、収集資料の整理・分類、研究の進捗状況を公開するためのホームページ制作などを始めることがまだできていない。研究調査の途上なので、公開できる資料はある程度限られてはいるが、現在までの資料調査の成果を今後の研究に活用できるように整理・体系化し、それを研究者間で共有することは、さらに貴重な情報を得るための有効な手段でもあるので、こうしたことの実現を平成28年度においてはかりたいと考えている。 研究の進捗状況は以上の通りであり、総合的に見て、おおむね順調に進展していると判断できる。
|
今後の研究の推進方策 |
今後も、当初の計画通り、研究を遂行して行く予定である。平成28年度は、特に注目すべき3人の作家(サルマナザール、デフォー、スウィフト)のうち、やや研究の遅れているデフォーについて、まずその全著作と執筆経緯を射程に入れた上で、日本表象の性格を明らかにする。その上で、3人の日本表象のいわば成立事情を、文学史的文脈のみならず、文化的・歴史的事情も勘案しながら統合的にまとめ、その成果については、著作物による公表のみならず、ホームページなどによっても逐次公開して行く。平成29年度は、研究の第三段階、すなわち、当時の文献そのものの東西交流と、そこに影響を受けた日本表象の性質を実証的に明らかにすることを中心に研究を進める。この段階では、イギリスのみならず、東インド会社や鎖国下の日本に関する影響関係から、オランダのライデン大学所蔵の資・史料なども調査対象となる。研究最終年度である平成30年度には、研究成果を統合的にまとめるとともに、これを、論文、著書、ホームページのほか、海外研究者との意見交換を念頭に置いた国際シンポジウムの開催によって公にしていく予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究の進捗状況と成果を公開すべく、当初から、本研究のためのホームページを開設する予定で、そのための資料整理と製作にかかわる支出を予定していたが、収集資料などに関する調査・検討が、既にかなり進んでいるとはいえ、公開のためにはまだ不十分なところが残されている。そのため、この目的のための支出が発生しなかったことが、次年度使用額が生じた理由である。
|
次年度使用額の使用計画 |
公開すべき資料と研究成果の吟味・検証は平成28年度内に完了する予定であり、この次年度使用額をホームページ作成等に関わる経費として本来予定していた目的に沿って支出する予定である。なお、その他の研究は順調に進んでおり、当初予定していた平成28年度分の助成金については、計画通りに執行できる。
|