研究課題/領域番号 |
26370297
|
研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
阪本 久美子 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (50319240)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 異性配役上演 / 観客調査 / シェイクスピア |
研究実績の概要 |
前年度に引き続き、以下のとおり調査を進めた。 [アンケート調査] 彩の国シェイクスピア・シリーズの『ヴェローナの二紳士』のオールメイル上演(蜷川幸雄氏演出)に関して、アンケート調査を行った。劇場での調査は許可されなかったが、今回の予備調査をとおして、次回ブログを利用したより幅広い調査を行うための足掛かりが得られた。[インタビュー調査] 上記のアンケート調査において、一部の観客にインタビューを行い、アンケートの質問や選択肢を改良することができた。 [ファンクラブの調査] スタジオライフのファンクラブに入会し、ファンクラブ運営の仕組みを調査した。会員特典として、先行予約、会員価格でのチケットの販売、会誌の発行に加えて、誕生日にはファンが選んだ役者からメッセージが届き、役者たちとのバスツアーなどの交流会も企画される。また、スタジオライフのファンや演劇ファンによるブログの調査を行った。[上演作品の調査] 一年をとおして、オールメイル(彩の国シェイクスピア・シリーズ、スタジオライフ、花組芝居、歌舞伎など)、オールフィメイル(宝塚歌劇団)、部分的に異性装(美輪明宏出演作品など)、男女配役交換上演(『夜の姉妹』上演)を視察した。 また、異性配役上演での上演作品の通常(性同一)上演も、比較のために視察した。[上演資料の調査] 2016年2月にロンドンのヴィクトリア・アルバート博物館ブリスハウス資料室およびグローブ座資料室にて、異性配役上演および異性装の女性が宝塚風に演じられたThe Roaring Girl上演といった過去の作品を閲覧した。 また、本年度は日本およびヨーロッパにおける異性装の伝統に関して大変興味深い研究を発見したため、日本(女装)およびヨーロッパ(男装)の伝統を歴史的に調査し、歴史的・社会学的な相違が現代の演劇における異性配役上演にどのような影響を及ぼしているかを検証した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前年度以上にアンケート調査を進め、そしてその結果を発表することを予定していたが、以下のとおり問題が発生した。 1)昨秋の『ヴェローナの二紳士』における観客調査は、予想していた以上に時間と労力を要した。つまり、協力者へのアンケート協力要請に始まり、実際の観劇のおぜん立て、その後のアンケートの集計、調査費用の支払いなどは、考えていたよりも難しかった。 2)1)のために、本年度中に予定していた研究成果の発表が遅れることになった。 3)アンケート調査の対象となる上演、つまりシェイクスピアの異性配役上演自体が非常に少なかった。たとえば、女体シェイクスピア・シリーズと銘打ってオールフィメイル上演を行っていた劇団柿喰う客は、本年度は異性配役上演を行わなかった。また、イギリスでもオールメイル劇団プロペラが2年連続で、過去の作品を子供を対象に短縮した上演以外、新作を上演しなかった。 上記以外の点では、問題なく順調に研究が進展しており、発表論文も執筆中である。特に、「研究実績の概要」に記したように、日本とヨーロッパの社会における(劇場の外の)異性装について、興味深い研究に出会い、新たな洞察を得たことは大きな収穫であったと考える。
|
今後の研究の推進方策 |
今後も継続して、劇場における上演の視察、過去の上演の録画資料の閲覧、および該当作品の上演資料の調査を進めていく。また、観客論や他の研究者による類似した調査の結果、調査の対象とする行うシェイクスピアの作品に関しても、随時最新の情報を得られるように目を配り続けていく予定である。 アンケート調査に関しては、本年度の経験を元に、時間と労力を短縮して、より幅広い調査を行うために、今後は既存のブログ(観客発信メディアWLなど)に協力を求めたい。対象研究となる上演が限られているというのは、非常に痛い事実である。しかしながら、研究プロジェクトとしては有期であるが、その期間内に異性配役上演に関するアンケート調査を長期的かつ継続的に行うことを可能とする体制を作ることに意義があると考える。また、観客という不確定な存在を実証論的に解明するには、長期にわたる調査が不可欠である。したがって、本プロジェクトの最終年に長期的調査のための礎を確立することを最大の目標としたい。 来年度は、夏に開催されるWorld Shakespeare Congress(世界シェイクスピア会議)にて研究を発表する機会がある。こちらでは、蜷川幸雄氏演出のオールメイル『ヴェニスの商人』とスタジオライフによるオールメイル『ヴェニスの商人』の改作を比較検証することにより、このシェイクスピア作品に内在するジェンダーの問題と現代上演における異性配役上演との関係を考察する予定である。 また、アンケート調査の実際と問題点に関する論文も、本年度の痛い経験も含めて完成させる予定である。
|